グレイス・ロイス、VENUE | S6Lによるサブライム・ウィズ・ロームのミキシングを語る

By in ライブサウンド

スタジオ・エンジニアからスタートし、アリゾナ州テンペに自分のスタジオを開設したグレイス・ロイス(Grace Royse)氏は、ライブ・サウンド・ミキシングに手を広げました。クライアントには、ノー・ユース・フォー・ア・ネイム(No Use for a Name) 、ダーティー・ヘッズ(Dirty Heads)、サイプレス・ヒル(Cypress Hill)、フィッツ&ザ・タントラムズ(Fitz and the Tantrums)等、豪華な名前が連なります。過去5年程は、サブライム・ウィズ・ローム(Sublime with Rome)のFOHエンジニアおよびプロダクション・マネージャーを務めてきました。長年のVENUEユーザーであるロイス氏は、最近、S6Lへ移行しました。ハワイ、グアム、韓国へのツアー準備に取りかかっている彼女に、新しいコンソールの印象を聞きました。

グレイス・ロイス氏とS6Lシステムを用いたFOH(Clearwing Productions提供)

DH: 11年前、スタジオ・エンジニアからライブ・ミキシングに転向されましたが、ライブ・サウンドに携わるようになった経緯について、また、ライブ・ミキシングでの出来事や節目等についてもお話しいただけますか?

GR: 数年間、アリゾナ州テンピというところにある劇場で働いていたのですが、最初のツアーは、パンクロッカーの仕事でした。それが、きっかけで、まわりまわって、サブライム・ウィズ・ロームと仕事をするようになりました。ファット・レック・コーズ(Fat Wreck Chords)ツアーでは、ノー・ユース・フォー・ア・ネイム(No Use for a Name)とNOFXと一緒に回り、当時、フロッギング・モリー (Flogging Molly)のミキシングを担当していたアーロン・グラスととても親しくなりました。彼がフロッギング・モリーを担当している間に、ツアーに参加することはありませんでしたが、パンクロック・バンドは皆一緒に回っていたのです。

そんなわけで、共にする時間がありました。彼は、間違いなく私のメンターのトップ5に入ります。デスク全体が興奮状態にあっても、アーロンは、「もう一曲やるのか、わかったよ」とバンドに言います。彼は、熱しやすい男ではありません。常に冷静で、彼に掛かると全てがたやすく見えます。パンクの世界では、6、7バンドが一緒にツアーするので、冷静さを保つことは、是非覚えたいスキルです。

パンクの世界から次は、サブライム・ウィズ・ロームのモニターを数年間行いました。友人であるプロダクション・マネージャーから学び始めた時、と言っても、何かを学びとりたいと思い彼に付いて回っただけのですが、FOHに重点を移しました。運よく、実に多くを学べました。アーロン・グラスとは、数年後、フィッツ&ザ・タントラムズで遂にツアーを共にすることができました。ワールドツアーを3回しましたが、その3回ともゴールド・レコードを獲得しました。

レッドロック野外劇場にて

2年前、ダーティー・ヘッズのFOH&ツアー・マネージャーとして呼ばれました。彼らとツアーをしていると、私のマネージメント(サブライム・ウィズ・ロームも担当)が、「いつからそんなことをしてるんだ。戻ってこなきゃだめだ」と言ってきました。当然です。それがこの業界です。繋がりは大切です。誰かが向こうから手を振って、手伝ってくれとか戻っておいでということが、いつあるかわからないのですから。

誰もが、最後まで友達なのです。私は、運よく彼らに呼び戻されて、ここ数年間、プロダクション・マネージャーとFOHエンジニアを兼任しています。最高です。自分が仕切るショーが好きなのはもちろんですが、ツアーの機材、スタッフを自分で選び、トラックを自分で決めるのは、実に楽しい経験です。その部分は、とても気に入っています。他の人に任せずに、ステージ・マネージャーやPAを自分で選び、大きな決定を自分で下す時のほうが、事はずっとスムーズに運びます。

ソニーミュージックグループでは、アーティスト養成も行っています。プロダクション・マネージャーがそのようなことをするのは、かなり変だし、好きではありません。むしろ、両方の仕事をしたいです。

 

DH: VENUE | S6Lはどのように知りましたか?VENUE | S6Lを持っていきたいと思った理由を教えてください。

GRClearwingがVENUE | S6Lを持って出た国内ツアーに、うちのシステム技術者のエリック・トーマスが、数週間参加しました。私たちは、夏の準備を進め、私はPAを選び、全てを整えていました。そんな中、「これは絶対試してみるべきです。売り込もうとしているわけじゃない。でも、これは間違いない。誓ってもいい」と言ったのは彼でした。そして、その言葉通りでした。私はデスクに向かい、そのまま虜になりました。ワークフローは実にスムーズで、古いファイルとも統合することができました。

レッドロック野外劇場

DH以前は、ミキシング機材は何を使っていたのですか?

GRProfileは、間違いなく業界標準になりました。サブライム・ウィズ・ロームとの最後のツアーの前に、2回の大規模なツアーでSoundcraftのViシリーズを使用しました。Viシリーズのワークフローは実に魅力的でした。デスクのデザインも気に入りました。また、エンコーダーの設定ができ、ワークフローを自在にカスタマイズできることも良かったのですが、DiGiCoの必要を満たすほどではありませんでした。ショーの前にIKEAの家具を組み立てるようなわけにはいきません。

スタジオ・エンジニアとマスタリング・エンジニアの立場から、コンサート制作とFOHミキシングでキャリアをスタートしました。マイク・テクニック、ゲイン・ストラクチャー、周波数、イコライザー、コンプ、サウンドミックスといった、全てわずかな調整が大きな違いを作り出すそれらの知識もスタジオ・エンジニアとマスタリング・エンジニアとして得たものです。トーンやプレスメントを調整し、楽器の特徴を守るために膨大な時間を費やす繊細な仕事です。

新たなものとしてデジタルが登場し、デジタルデスクが広まり始めた頃、私にとって最大の問題は、先述のような全ての努力を妥協することでした。私はA/D変換が極めて重要という世代なので、サンプルレートやビットデプスは、チャンネルの健全性に不可欠な要素なのです。11年前、ライブ・サウンドへ移行しましたが、最大の違いは、チャンネルに対する作業の量が膨大なため、常にゲイン・ストラクチャーを正常に維持しなくてはないことでした。

規則性のない会場の構造とステージ音量と、インスツルメントをうまく混ぜ合わせなくてはなりません。例えば、前回のツアーでは、RFマイクをピアノに取り付け、PAの前で、炎が上がり、回転して空中に上がっていくセットで・・・・ミックスは簡単ではありません。コンサートでは、落ち着いたスタジオ環境は望むべくもありません。コンサートの世界では、常にある程度の選択の中で補正ミキシングをして切り抜けています。

多くの場合、高価なプラグインを後で加えることもできますが、個人的には、出来るだけ努力すべきだと思います。(デジタルデスクのプリアンプのマスタリング品質の話ではありません。)それらは優れたプリアンプです。しかし、どの段階でもゲインやトリムを上げると、チャンネルに良い影響を与えている気がしません。そこで初心に戻ります。自分がインスツルメントに対して何をしているかを考えます。正常なチャンネルに必要なことは何か分かっているので、自分がもし何かダメージを与えている時には気付くことができます。ダメージを聞き取ることができます。

無数のプラグインをチャンネルにあてるとき、プラグインによって何がどう入ってどう出てくるか、うまくいっていない場合には耳で分かります。初めてS6Lに出会った時、すぐに気付いたのは、S6Lのプラグインに対する反応の素晴らしさです。正直言って、できると言うことに2000ドルも支払ったのに、チャンネルの整合性を壊すことが聴こえるプラグインと戦うのはもう止めました。

S6Lは、音質に一切の妥協をしません。複製したインサート有りのチャンネルとインサート無しのチャンネル間で切り替えても、チャンネルのオリジナルのゲイン・ストラクチャーを損なっていないことが分かります。やりたいこと全てを実現するために、ものを増やして、適切なチャンネル・プレッシャーを維持することに異論があるわけではありません。ただ、デスクの動きにいちいち反応して、ゲインイン/アウト、トリムイン/アウトしません。アナログデスクで育ってきたので、そういう動きはしないです。最初に決めたら、実行するだけです。プリアンプに戻るのは、クレイジーで大きな動きをした時だけです。コンプレッサーでほんの少しメイクアップをあげたら、終わりにして、ショーをミックスします。

システム技術者のエリックは、物理、音響、周波数応答のマニアです。彼から学べば学ぶほど、知らないことが多いことに気付きます。異なる会場にも一貫性を作り出し、芝地でもアリーナの最上階でも空間全体を均一に、ばらつきなくする能力は、スタジオの安定性をツアーにもたらしてくれます。そして彼こそ、他のデジタルデスクに対する私の不満を知って、S6Lへと後押しした人であり、この良いところしか見つからないデスクを本当に理解するようしむけてくれた人です。

このツアーでまだ3ヶ月しかあれこれ試していないのですが、最も重要なのは、これからしばらくはこのデスクと共に成長できると確信していることです。過去には、出力が不足し、拡張性が足りない限界のあるデスクを使ったこともあります。エンジンパワーが足りなかったり、プラグインを多用したければもっと大きな外部機器を使うか、他のミキサー等にサブミックスする必要があったものです。

しかし、このデスクなら、共に成長することができると感じています。アウトプットやルーティングのあらゆるオプションを活用していくことになるでしょう。エンジンパワーも全て活用していくでしょう。そして、今後数年間、間違いなくプラグインを加えていくでしょう。既に、お気に入りはありますが、試してみたいものがいくつかあります。また、Avidが更新を続け、私たちユーザーとの対話を続けることからも、これこそ、共に成長できるデスクだと確信しています。大きな可能性が見えます。S6Lには、私が望むものを実現する余力が十分あるのです。

数か月前、ツアーでは、文字通りProfileの全てを使い倒していました。使っていないものは何もありませんでした。それが持つもの全てを活用しました。Profileは、確かなプラットフォームですが、エリックがS6Lをせがんだ時は、とても嬉しかったです。

サブライム・ウィズ・ロームは、一部のコンサートであるような150チャンネルも使用しません。S6Lで仕事するのは、9部門が全て見つめる巨大な会場で、パイロ技術者は他の限定的なトークバック・ミックスを必要とし、トレーラーでいかなくてはならないといったプレッシャーもなく、とても良かったです。デスクに集中して掘り下げ、何ができるかを試すことが出来たのはとても良い経験でした。

DH:ツアーでのデスクのセットアップは、既存のVENUEショーファイルを基にしましたか?それとも最初から作りましたか?

GR:どちらが良いか見るために、両方行いました。ある程度の基本的なプリプロを行いましたが、Profileで行い、その後、1週間ほどはトレーラーもなく、本制作にはかかりませんでした。2週間ほど、エリックも機材もなしでツアーをまわったので、Profileショーファールをロードし、それにそってプレイしました。もちろん、アフターマーケットのプラグインを置き換えて、若干の調整も必要でした。

正直、それはすぐにやめました。最初から設定する方法が、私にはあっていたのです。両方とも、全く違うが良い方法です。バンドのFOHについたエンジニアが、バンドのVENUEファイルを携えてデスクに向かうことがありました。私は、トランジションがどうなるか見てから、スムーズに移れるようサポートしました。彼らは、ショーをうまく運営し、満足して去りました。しかし、私は自分が3カ月の間ずっと、デスクに着くことが分かっていたので、何もないところから始めるのがふさわしいと思ったのです。

システム技術者 エリック・トーマス氏

DH: バーチャル・サウンドチェック機能を使いますか?それとも、バンドはいつもライブサウンドチェックを行いますか?

GR: バーチャル・サウンドチェックは、時々使っています。ポップやエレクトロニカのプロジェクトではより頻繁に使用します。残念ながら、ヘビーロック・バンドでは、好き嫌いに関わらず、ステージ音量がショーの大きなパートを占めます。バーチャル・サウンドチェックは役に立ちますが、そこで終わりではないのです。もっとも、私のバンドでは、サウンドチェックをしたことがありません。彼らは、私を信じて技術者に任せ、私はやるべきことをやります。私は、それらの空間のアンプを聞かなければならないので、技術者にセッティング・セッションを任せます。彼らは、バンドをMustache Rideと呼んでいます。いい名前です。今、私の一番のお気に入りですね。

私の仕事の観点からいうと、バンドには数曲演奏してもらえばそれで十分です。ステージ音量が非常に低いポップアーティストでない限り、エリックの仕事をチェックして、2人とも会場全体の均一性に満足していることを確認するには、今のところ、バーチャル・サウンドチェックだけで事が足りています。Smaartのような追加ツールですが、唯一のツールではありません。フィッツ&ザ・タントラムズのツアーでは、アーロン・グラスがバーチャル・サウンドチェックを多用します。彼は、とてもうまく使いこなします。バンドは、来たくなければ、来る必要すらないのです。

Avidプロマルチバンド・ダイナミクス・プラグインを使用する

DHショーは全て収録しますか?

GRほぼ全てのショーを収録しますが、このバンドでは、全てのショーを収録する必要はないと感じています。収録を望むバンドは多く、バンドが望めば、間違いなく収録します。Kygo、John Legend Tourでは、全てのショーをPro Tools HDへ多重録音しました。

 

DH: 新しいコンソールのプラグインはどうですか?

GR: [Pro] Multiband は、本当にすごい。加えられる帯域幅があと2つあったら良かったと思いますが、積み重ねています。パンクやラップバンドの多くは、好んでマイクを手で包み、観客の中へ走りますが、そんな場合も周波数をある程度制御したい。何をしようが、彼らは暴走します。永遠にEQし続けることになります。しかし、いずれ音を壊し、制御不能になります。ライブ・サウンドでは、音質を維持しながら、様々な修正を重ねなくてはなりません。それが、この仕事の神髄です。長い間、マルチバンドの類には、思い通りに機能するものを探して大金を投じてきました。Avidが機能を加えてくれて、本当に嬉しいです。間違いなく、使っていきます。

サブライム・ウィズ・ロームでは、ロームのスタジオのボーカル・チェインにはLA-2Aが含まれるので、AvidのBF-2Aとマルチバンドを使用しました。テープディレイもリバーブも好きですが、まだ、手放せないという域には入っていません。Reverb OneとReVibe IIで、思い通りのサウンドを得ることができました。バスにPultecは超重要であり、今駆使するコンプレッサーの中でもImpactは必ず帯同します。エリック・トーマスからは、「Impactをもう1台用意しようか?」とからかわれました。何と言われようとも、棚にはImpactがぎっしりです。AvidのEQは非常に気に入っています。Avid Channelは、超便利です。

グゥエン・ステファニーのプロダクション・マネージャーであるブライアン・グロスも、メンターの1人です。スタジオ生活からライブ・サウンドの世界へ移る時、非常に不思議に感じたのですが、良い音を得るには、強引さが必要です。最初は、控えめに言っても、おっかなびっくりでした。「グレース、恐れちゃいけない。古臭い人が、肩越しから『あー、これは変だ』と言っても、良い響きであり、チャンネルにも良いと分かっていることをするのを躊躇してはだめだ」と最初に言ってくれたのは、彼でした。私が今こうしてミキサーとしていられるのも、自分の耳を信じることを学んだからです。

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詳細
Avidライブサウンド・システム及びノーテーション・シニア・マーケティング・マネージャー。 以前はEuphonixとE-MUシステムで働いていた経歴を持つ。