『HALO 5: Guardians』サウンド・プロダクション・ストーリー

By in オーディオ

本投稿は旧Avid Blogにて、2016年6月24日に公開された記事の再投稿です。

Pro Toolsと大量のソフト・シンセで紡ぎ出された大ヒット・ゲームのサウンドトラック

昨秋リリースされたMicrosoft Studiosの『HALO 5: Guardians』は、世界中に熱狂的なファンを抱えるファーストパーソン・シューティング・ゲーム、『HALO』シリーズの最新作です。Microsoftの次世代ゲーム機、Xbox One用に制作された『HALO 5: Guardians』は、同機の高性能を生かした緻密なグラフィックスとスケール感のあるサウンドによって、従来のファーストパーソン・シューティング・ゲームを凌駕する圧倒的な没入感を実現。発売から半年が経過した今でも、世界中で驚異的なセールスを記録し続けています。

そんな『HALO 5: Guardians』のサウンドトラックを手がけたのが、アメリカ・シアトル在住の日本人作曲家、陣内一真氏です。バークリー音楽大学を卒業後、コナミデジタルエンタテインメントで数々のヒット・ゲームのサウンドトラックを手がけた陣内氏は、Microsoftからの熱烈なラブ・コールを受けて2011年に渡米。以降、同社傘下のゲーム制作スタジオ、343 Industries専属の唯一の作曲家として活躍しています。Pro Tools|HDXシステムと多数のソフトウェア・インストゥルメントを駆使して壮大な楽曲を作り上げる陣内氏に、大ヒット・ゲーム『HALO 5: Guardians』のサウンドトラックはどのようにして作られたのか、これまでの歩みとともにお話を伺いました。

バークリー音楽大学を卒業後、ゲーム音楽の作曲家としてデビュー

——— まずは陣内さんが作曲を始められたきっかけからおしえてください。

陣内 小学生の頃、ファミコンが欲しかったんですけど、ぼくの家は買ってもらえなかったんです。でも、どうしても欲しくて親にしつこくねだったら、“そんなにゲームがやりたいなら自分で作りなさい”と、パソコンを買い与えられて(笑)。仕方なくプログラミングを覚えてゲームのようなものを作り始めるんですが、当然音楽も自分で付けなければならないわけです。コンピューターから音を出すにはどうすればいいのか調べたところ、ヤマハのHELLO! MUSIC! 50というDTMセットの存在を知り、同時にギターを手に入れて……。それからですね、作曲を始めたのは。確か16歳のときだったと思います。結局、自分のゲームに音楽が付くことはなかったんですけど(笑)。楽器に関しては小学校三年生からフルートをやっていました。やっていたと言っても、本当に趣味程度でしたけど。

——— バークリー音楽大学に進学されたのは?

陣内 高校生のときに1年間、交換留学でアメリカに行ったんですが、そのときに音楽に目覚めてしまったんです。アメリカの高校には“ゼロ時間目”という朝6時半から始まる必須ではない授業があるんですけど、そこでビッグバンドを初めて聴いて感銘を受けて……。ビッグバンドをきっかけに、ジャズを土台にした音楽に興味を持ち始めたんです。それで音楽大学に進学して作曲を真剣に学びたいと思ったんですが、音楽教育を受けていませんでしたから、日本の音楽大学に入るのは難しいんじゃないかと。そんな悩みを先生に相談したら、バークリー音楽大学のサマー・スクールを勧めてくれて。それで受講してみたらますます音楽に興味を持ってしまって、この大学で勉強したいと思い、親にお願いして留学させてもらったんです。

バークリー音楽大学に入学したのは1999年のことで、ぼくはContemporary Writing and Productionという学科を専攻しました。今はちょっと違うみたいなんですが、当時のContemporary Writing and Productionは管楽器とリズム・セクションのアレンジを集中的に学べる学科だったんです。だからバークリーの4年間では、アレンジをメインに勉強した感じですね。3年目になるとスタジオ・プロダクションの授業もあって、実際にスタジオではどうやって音楽が作られるかということも学びました。技術的なことだけでなく、エンジニアと円滑にコミュニケーションを取るためのスキルとかも教えてくれて。打ち込みの上に生楽器を重ねてレコーディングするにはどういう感じでデータを作ったらいいかとか、ミックスを円滑に進めるにはどういう素材を持っていくべきかなど、そういう実践的なことをたくさん学びました。

陣内一真氏

陣内一真(じんのうち・かづま)氏。広島県出身、アメリカ・シアトル在住。2003年にバークリー音楽大学を卒業後、2006年よりゲーム音楽や映画音楽の制作に携わるようになる。旧小島プロダクション(株式会社コナミデジタルエンタテインメント)の『メタルギアソリッド』シリーズなどの音楽を担当し、現在は米Microsoft傘下の343 Industries(Microsoft Studios)に所属。世界的大ヒットゲーム、『HALO』シリーズの音楽を手がけている

——— 卒業後は会社に就職されたのですか?

陣内 卒業後帰国してしばらくは、フリーのコンポーザー/アレンジャーとして仕事をしていたんですが、あるときバークリー時代の同級生だった戸田さん(作曲家の戸田信子氏)から“コナミデジタルエンタテインメントが新人の作曲家を探しているんだけど興味はないか?”という連絡があったんです。ちょうどPlayStation 2からPlayStation 3に移行する時期で、戸田さんにも“向いてると思う”と後押ししていただいたこともあり、おもしろそうだなと思いやってみることにして。でもそれまで、映像に音楽を付けるということをほとんどやったことがなかったので、最初は大変でした。映像を引き立てる作曲をした経験もありませんでしたし、カット・シーンの音楽は映画のスコアリングと同じで、それまでやっていたバンドもののアレンジとまったく違いましたから。プロジェクトを通して少しずつ学んでいった感じです。

——— コナミデジタルエンタテインメント時代に手がけた作品で、最も思い入れのあるものというと?

陣内 やはり『メタルギアソリッド』です。これまで手がけた作品の中で一番物量が凄くて、1〜1年半で200曲くらい作りました。音楽だけで8時間以上ありましたね。結局、コナミデジタルエンタテインメントでは5年間仕事をさせていただきました。

2011年、Microsoft傘下のゲーム制作スタジオ、343 Industriesと契約

——— 『HALO』シリーズの開発を手がけるMicrosoft傘下のスタジオ、343 Industriesの専属作曲家になられた経緯をおしえてください。

陣内 『メタルギアソリッド』シリーズのオーディオ・ディレクターだった戸島壮太郎さんという人がいらっしゃるんですが、その方が343 Industriesで活躍されていたんです。そんな戸島さんからある日突然電話がかかってきて、“アメリカに移って『HALO』シリーズの作曲家としてやってみないか”と誘ってくださって。『HALO』シリーズの音楽を手がけられるということに魅力を感じて、思い切って渡米することにしたんです。同時期に予定していたプロジェクトがキャンセルになったりして、これはそういう(自分の環境を変える)タイミングなのかなと。それが2011年のことで、最初に手がけたタイトルは『HALO 4』(2012年11月発売)ですね。

——— 『HALO』シリーズの音楽を手がけられることに魅力を感じたというのは?

陣内 『HALO』シリーズはその世界観もさることながら、音楽にとても存在感のあるタイトルなんです。ファーストパーソン・シューティング・ゲームとしては珍しく、音楽が何となく雰囲気を盛り上げるのではなくて、もっと大きな役割を担っている。だからゲーム音楽の作曲家として常に気になるタイトルだったんです。

——— 同じゲーム音楽の仕事でも、アメリカと日本ではやはり違いますか?

陣内 アメリカの他のスタジオを知らないので一概には言えないんですが、個人的に感じているのは、こっちの作業の進め方は非常に民主的ということです。もちろんクリエイティブ・ディレクターや、直属の上司であるオーディオ・ディレクターからトップ・ダウンで指示されることもあるんですが、基本的には皆で話し合って方針を決めていく。言い換えれば、スタッフが積極的に提案しないと物事が進んでいかないんです。作曲家が“こういうヴィジョンはどうでしょうか?”と提案するというのは、日本ではまったく経験のないことだったので新鮮でしたね。スタジオの偉い人と直接ディスカッションすることもありますから。

——— スタッフの数も違いますか?

陣内 アメリカは、制作時期によってスタッフの数が変動するんです。と言うのも、アメリカの会社は正社員は最小限に抑えて、繁忙期に契約社員を雇うんですよ。常駐させる必要のないスタッフは正社員としては雇わないというのがアメリカの会社のスタンスなんです。必要なときに1年契約でサウンド・デザイナーを増員したり、インプリメンターと契約したり……。343 Industriesに関して言えば、オーディオ・チームの正社員はぼくを含めて8人しかいないんですが、繁忙期は16人くらいのチームになったりする。ですから、かなりダイナミクスのあるチーム編成になっていますし、コミュニケーションも流動的です。シアトル近郊は、ゲーム会社が凄く多いんですよ。だから経験豊富なフリーランスの人材もたくさんいるんです。彼らがほかのプロジェクトを通して得た経験を生かせる制作環境づくりが大事になってきます。

——— 343 Industriesのオーディオ・チームの構成をおしえてください。

陣内 オーディオ・ディレクター、コンポーザーであるぼく、サウンド・デザイナーが2人、テクニカル・サウンド・デザイナーが1人、インプリメンターが1人、オーディオ・プロデューサー、オーディオ・プロデューサーの仕事を補佐するアソシエート・オーディオ・プロデューサーの計8人です。フォーリーに関しては、サウンド・デザイナーが手がけることもありますし、外注することもあります。

——— インプリメンターというのは、日本で言うところのサウンド・プログラマーですか?

陣内 インプリメンターは、プログラマーとクリエイターの橋渡しが主な仕事で、こちらが編集した素材をプログラマーと協力してプログラムに組み込みます。

——— オーディオ・ディレクターとオーディオ・プロデューサーの役割分担についておしえてください。

陣内 オーディオ・ディレクターは、音楽/効果を用いた音響演出やミックスなど、出音に関する部分を担います。どういう音にするかという責任は、すべてオーディオ・ディレクターが負っている。一方、オーディオ・プロデューサーは、予算やスケジュール、スタッフの管理など、クリエイティブ以外のことをこなす人ですね。こちらではパイプラインと呼ぶんですけど、どういう制作フローがベストなのかを考えたり、機材を手配するのもオーディオ・プロデューサーの仕事です。

——— ゲームの制作期間は、日本と比べていかがですか?

陣内 『HALO』シリーズの制作期間は1タイトル3年くらいですが、これは日本でも標準的だと思います。でも3年間の中で実際に作曲をしている期間は1年半くらいですね。それ以外の期間はオーディオ・チームの一員として、社内プレゼン用のプロト・タイプを制作したり、プロジェクトの最終盤では音楽エディットと組込みに専念したりと、作曲以外の仕事もいろいろしています。

HALO 5: Guardians

最新作『HALO 5: Guardians』のサウンド・プロダクション

——— 昨秋発売された『HALO』シリーズの最新作、『HALO 5: Guardians』は世界的な大ヒットを記録しています。この作品の音楽を制作するにあたって、プロデューサーからは最初にどのような話があったのでしょうか?

陣内 シリーズものとして、過去のテーマ曲を効果的に引き継いでほしいということを言われました。“効果的”というところが肝で、どの曲をどのように引き継ぐかがポイントだなと。オーディオ・ディレクターが絶対に使いたい曲というのもあったので、実作業に入る前にかなりディスカッションを行いました。

テーマ曲の制作に入るときに考えたのは、新しい主人公のこと。『HALO』シリーズには代表的なキャラクターとして、マスター・チーフというスーパー・ヒーローがいるんですが、今作ではさらにジェイムソン・ロックという新しい主人公が登場するので、その新キャラクターの存在感をテーマ曲でいかに演出するかということを考えました。マスター・チーフは屈強なヒーローという位置づけで、力強さを意識して曲を書いたんですが、ジェイムソン・ロックは頭脳派のキャラクターなんです。ですからテーマ曲も少し捻りのある感じの方が合っているんじゃないかと思い、ハーモニーやメロディの音の使い方などにこだわりました。新しいテーマ曲に関しては、他のスタッフと密にやり取りしながら、3週間くらいかけて作りました。

——— テーマ曲の制作に入る段階で、ゲームのストーリーやビジュアルはどの程度完成しているんですか?

陣内 10ページくらいにまとめられたストーリーのアウトラインと、コンセプト・アートがありました。最初にストーリーを読んで、コンセプト・アートを見ながら曲作りに入った感じですね。コンセプト・アートは大切な資料なので、それは常に画面に映っている状態にして。また、コンセプト・ビデオもあったので、それも雰囲気を掴むのに参考になりました。作品によってはサウンドからアプローチすることもあるんですが、今回はメインのテーマ曲から作業を始めましたね。

——— 前作よりも楽曲数は増えましたか?

陣内 そうですね。最終的にゲームに入った音楽は、今回は総尺3時間くらいで、前作は2時間半くらいでした。ゲームとしてスケールがかなり大きくなっていますから、大体これくらいなのかなと思いますが、決して多いほうではないと思います。3時間の内訳は、約2時間20分がストーリー・モードの曲。そして『HALO』シリーズはオンライン対戦も人気のゲームなんですけど、短いワン・ショットの曲やちょっとしたループが40分くらいあります。カット・シーンは全部で45分くらいですが、編集でカバーした方が効果的な場合もありますので、映像に合わせて作ったスコアは25分程度だと思います。

——— 作曲時はまずピアノなどの楽器に向かう感じですか? それとも最初からコンピューターを立ち上げる?

陣内 コンピューターを立ち上げて、最初に曲中で使用する楽器の“パレット”を決めます。そして楽曲のモックアップができた段階でオーディオ・ディレクターとクリエイティブ・ディレクターにプレゼンするんです。2週間に1回のペースで評価会を開催して、定期的に音楽のフィードバックを得られる体制で制作を進めました。

——— 陣内さんの作曲システムについておしえてください。

陣内 シーケンサー用と音源用が2台、計3台のMac Proを使っています。音源用のMac ProにはVienna Ensemble Proが立ち上がっていて、シーケンサー用Mac ProとはMIDI over LANで繋がっている感じですね。そして音源用Mac Proの一方にはPro Tools|HDXがインストールしてあり、ソフトウェア・インストゥルメントの出力は24bit/48kHzでPro Toolsにレコーディングします。Pro Tools|HDXシステムのオーディオ・インターフェースはPro Tools|HD MADIで、他にはAD/DAコンバーターのSSL XLogic Alpha-Link MX16-4、マスター・キーボードのローランド RD-700、マイク・プリアンプのFocusrite OctoPre、モニター・コントローラーのSPL Monitor & Talkback Controllerがあるくらいですね。モニター・スピーカーは、Neumann KH 310 Aを使用しています。

陣内氏の作業スペース

陣内氏の作業スペース

Plugin Alliance Maag Audio EQ2

今回、作曲時に使用されたプラグイン。Plugin Alliance Maag Audio EQ2、DMG Audio EQuality、Avid ReVibe IIなどが立ち上げられている

ソフト・シンセの出力はすべてPro Tools上にレコーディングされ、オーディオ化される

ソフト・シンセの出力はすべてPro Tools上にレコーディングされ、オーディオ化される

——— Vienna Ensemble Proではどのような音源を使用していますか?

陣内 生楽器系に関してはほぼNative Instruments Kontaktのライブラリーです。具体的にはSpitfire Audioのライブラリーを使うことが多いですね。例えばストリングスだとBMLシリーズのMuralやSableとか。Spitfire Audioのライブラリーのフル・オケが常に立ち上がっている状態です。

——— シンセ的な音色に関しては?

陣内 u-heのDark Zebraをよく使いました。Dark Zebraは、フィルターの音が好きなのと、中身はモジュラー・シンセなので、凄く複雑な音作りができるところが気に入っているんです。新たな試みとして今回は、Remote Control Productionsのドリュー・ジョーダン(Drew Jordan)というシンセ・プログラマーに200音色くらいオリジナルのパッチを作ってもらいました。ドリューはハンス・ジマーのライブラリーを管理している人で、モジュラー・シンセでの音作りが凄く上手いんですよ。彼に作ってもらったパッチは本当に活躍しました。

——— 曲が出来上がる前に音色をオーダーしてしまうんですか?

陣内 プロジェクトに必要な音楽の“色”が見えてきた段階で、ドリューと打ち合わせをして欲しい音色を伝えるんです。“息遣いやうねりのある音色が欲しい”とか、“自分のライブラリーにはこういう音がない”とか。“モジュレーションを上げるとこういう感じで変化する音が欲しい”とか具体的に要望を伝えて。こっちは分業が進んでいるので、シンセ・プログラマーを使うケースは多いですね。

u-he Dark Zebra

今作で活躍したu-he Dark Zebra

——— Dark Zebraの他には?

陣内 あとは同じくu-heのDivaとか、もっと現代的なシンセ音が欲しいときはSynapse Audio Dune 2を使ったりとか。HeavyocityのライブラリーやSpectrasonics Omnisphereなども使用しました。その他にも、自分でサンプリングした音なども多く使っています。

——— ハードの音源はまったく使わないのですか?

陣内 Moogの音が好きなので、Voyager、Slim Phatty、Minitaurの3台はセットアップしてあります。Slim Phattyは、今回は出番は少なかったかもしれないですね。ハード音源を使うときは、フレーズが決まったらすぐにオーディオに録ってしまうんですが、いずれはリコールができるシステムを組みたいと思っています。

作業場のラック。Moog VoyagerやSlim Phattyなどがマウントされている

作業場のラック。Moog VoyagerやSlim Phattyなどがマウントされている

Abbey Road Studiosでのレコーディング、アラン・マイヤーソンによるミキシング

——— 陣内さんがSpitfire Audioのライブラリーを使って打ち込んだオーケストラは、すべて生に差し替えられるわけですか?

陣内 そうですね。基本的に生楽器はすべて差し替えました。今回、生楽器のレコーディングはスコア・プロデューサーの戸田さんと打ち合わせをして、ロンドンのAbbey Road StudiosとプラハのRudolfinumで行ったんです。Abbey Road Studiosを選んだのは、あのスタジオとプレイヤーでしか出ないサウンド、質感というのがあって、それがプロジェクトにマッチしていると感じたからです。Abbey Road Studiosの部屋は、Studio Oneを使用しました。

スコアに関しては、楽曲のMIDIデータとMP3ファイルを渡し、戸田さんにオーケストレーションをしていただきました。譜面の起こしやスタジオの手配など、レコーディングとミキシングに関することはすべて戸田さんを起点にやっていただいた感じですね。レコーディングにかけた日数は10日間程度で、ぼくはすべてのセッションに立ち会いました。

Abbey Road Studiosでのレコーディングの様子

Abbey Road Studiosでのレコーディングの様子

レコーディング前、打ち合わせをする陣内氏と戸田信子氏(写真左)、指揮者のマット・ダンクレー氏(写真右)

レコーディング前、打ち合わせをする陣内氏と戸田信子氏(写真左)、指揮者のマット・ダンクレー氏(写真右)

——— エンジニアはどなたが?

陣内 ピーター・コビン(Peter Cobbin)というレコーディング・エンジニアにお願いしました。レコーダーはPro Tools|HDXシステムで、ADコンバーターはPro Tools|HD I/O、マイク・プリアンプはNeve 88 RSの内蔵のものを使用していましたね。セッション・フォーマットは24bit/96kHzです。

レコーディングは、すべての楽器のマイクのパラに加え、Neve 88 RSで作った5.1chミックスと、それをダウンミックスしたステレオ・ミックスも同時に録りました。なぜライブ・ミックスを同時に録るかというと、後の音楽エディットのときに便利だからです。1回のテイクではマイクを24本くらい立てて録るわけですが、ライブ・ミックスを作っておけば、個別のトラックをインアクティブで保持したまま、すべての音を少ない発音数で聴くことができる。その状態で、ライブ・ミックスと個別のトラックをPro Tools上で1つのグループにして一緒に編集してしまったりするんです。

レコーディングを担当したピーター・コビン

レコーディングを担当したピーター・コビン

——— ミックスに関しては?

陣内 エンジニアは、アラン・マイヤーソン(Alan Meyerson)です。スタジオは、Remote Control Productionsのアランの部屋、Studio Mですね。コンソールはSystem-5で、Pro Tools|HDXシステムが3台、Pro Tools|Satellite Linkで同期して走っています。Pro Toolsの内訳は、レコーディングした生楽器の再生用、シンセ・トラックとモックアップの再生用、そしてフル・ミックスとステムのプリント用ですね。アランがミックスするときは、生楽器に差し替える前のKontaktで作ったモックアップのトラックもすべて持っていきます。なぜかと言うと、アランはミックスでサンプルを使う場合もあるんです。例えばヴァイオリンにライブ収録以上のパワーが欲しいというときは、打ち込みのKontaktの音を混ぜたりする。彼はそういうことを進んでやってくれるんです。

ミックスを担当したアラン・マイヤーソン

ミックスを担当したアラン・マイヤーソン

——— 生の音にこだわらないんですね。

陣内 そうですね。出音がすべてですから、ポストプロダクションで良くでなることは何でもやっています。

——— System-5では5.1chのミックスが作られるのですか?

陣内 まず各ステムのバランスをPro Toolsミキサーで作るんです。Pro Toolsの中で5.1chのステムを13本作る。その13本のステムをSystem-5でミックスすると1曲になるという感じですね。13本というステムの数はこちらからのリクエストで、ストリングス1、ストリングス2、ピッチのあるパーカッション、ピッチのないパーカッション、パッド系シンセ、アルペジオ系シンセ、ループ、エフェクトなどといった分類になっています。そして最終的にSystem-5を通ったフル・ミックスと、13本のステム、ステレオのダウンミックスをプリント用のPro Toolsに録るという流れです。

——— アラン・マイヤーソンはどのようなプラグインを使用していましたか?

陣内 Universal Audio UADのものなど、たくさん使っていました。他にはreFuse Software Lowenderというサブハーモニック・シンセサイザーや、Valhalla DSP Valhalla Room、Valhalla Shimmer、SoundToysやKush Audioのものなど。Exponential AudioのR2 SurroundやExcaliburもよく使っていました。

——— アラン・マイヤーソンは日本にもファンが多いエンジニアですが、その作業に何か特徴はありますか?

陣内 作る音もさることながら、ミックスにストーリーがあるのが特徴だと感じています。音楽の抑揚に合わせて、もの凄く細かくオートメーションを書いていく。それがそのままストーリーになっているというか、全体の流れを作るのが本当に巧いんです。単純に音をかっこよくプロセスするのではなく、ミックスを通してストーリーを作っているんですよね。

作曲/編曲からレコーディング、ミックス、最後のポストプロダクションに至るまで活躍するPro Tools

——— ミックス後はどのような作業になるのですか?

陣内 プリントされた素材を持ち帰ってPro Toolsで編集します。アランのミックスは5.1chなんですが、ゲーム内ではカット・シーン以外の音楽は4chだったり、PR用のステレオ・ミックスも作らなければならなかったりするので、自分で組んだテンプレートを使ってダウンミックスします。カット・シーン以外の音楽が4chなのは、単純にリソースの問題もありますが、効果音の関係で、センター・チャンネルやLFEをできるだけクリーンに聴かせたいというオーディオ・ディレクターの意向もあります。むやみにLFEを使うと、効果音と混ざってしまい、ユーザー・フィードバック的に良くありませんからね。カット・シーンの5.1chに関しては、アランに作ってもらった13本のステムをテンプレートにインポートして、それを大体6本くらいの5.1chにまとめます。ポストプロダクション時に微調整する必要があるので、その段階でもある程度分けておかなければならないんです。インプリメンターがプログラムに組み込んでから、さらに微調整を行うこともあるんですが、作業の流れとしては大体そんな感じですね。

ミックス後、Pro Tools上で音楽エディット作業が行われる

ミックス後、Pro Tools上で音楽エディット作業が行われる

——— どの段階でサンプル・レートやビット・レゾリューションを落とすんですか?

陣内 編集は24bit/96kHzのまま行います。最後の組み込みの段階で16bit/48kHzに落とす感じですね。映像のポストプロダクションに渡すときは24bit/96kHzのままです。

——— スコアリングからミックス、最後の編集に至るまで、Pro Toolsが重要な役割を担っていますね。

陣内 そうですね。こっちに来てしばらくはPro Tools|HD Nativeシステムを使っていたんですが、やはり今回のようにデモの段階からサラウンドで制作するような場合、DSPベースのPro Tools|HDXシステムが欠かせません。Avid ReVibe IIのようなサラウンド・リバーブをニア・ゼロ・レーテンシーでリアルタイムモニタリングできたりと、DSPのプラグインは使い勝手がいいですから。現在の作曲用のシステムですと、オケの音源の発音数が1,000を超えるので、リバーブやEQの処理でCPUパワーを消費しないのもいいですね。もちろんPro Tools|HDXシステムになって、音も良くなりました。昔使っていたPro Tools|HD Accelシステムと比べると、天井の高さがまるで違いますね。

——— Pro Toolsで特に気に入っている機能というと?

陣内 音楽エディットをする時によく使うオフライン・バウンスですね。編集時にかなり重宝しています。先ほども言ったとおり、5.1chのステムが13本もあるので、ボイス・カウントの管理がかなりシビアになってくるんですよ。最後に13本のステムを6本のステムにまとめる際、以前はPro Tools内部でリアルタイムで録っていたんですが、そのやり方だとボイス・カウントをかなり消費してしまっていたんです。今はAUXトラックを使ってボイス・カウントを気にせず複数のステムを同時にバウンスできるようになったので、凄く便利になりましたね。

——— Pro Toolsの将来のバージョンで期待することというと?

陣内 まだ試していないのですが、12.5のクラウド・コラボレーション機能はかなり気になっています。制作の最終盤になってくると、インプリメンターとの間でサーバー経由でファイルを頻繁にやり取りするようになるので、それが同じセッションを共有しながらできるようになれば、かなり効率が上がるようになるのではないかと思っています。早く試してみたいですね。

——— 最後に『HALO 5: Guardians』のサウンドトラックの聴きどころをおしえてください。

陣内 ファーストパーソン・シューティング・ゲームというジャンルのゲームにしては珍しく、音楽的には感情の抑揚のある仕上がりになったと感じていますので、そのあたりをぜひ聴いていただきたいですね。でもそんな表現ができたのも、ぼく一人の力ではなく、チーム・ワークが上手くいったからだと思っています。今回は特にそれを感じていますね。このメンバーだったら、もっと凄いことができそうなので、次の作品を手がけるのが今から楽しみです。

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