A Journey to Pro Tools 12.6

By in オーディオ

はじめに 

このブログでは、Pro Tools 12.6に搭載された新機能の幾つかが、どのような過程で誕生し、開発されていったかを、実際の機能の概要とともに紹介します。

私自身、一人のミキサー/サウンド・デザイナーであり、そして同じくサウンド・デザインに関わる優れたエンジニアの方々が多くいる日本で、Avidのオーディオ・アプリケーション・スペシャリストとして働けることを、とても幸運に感じています。

その中でも特に熱心でプロフェッショナルなユーザーのグループが、Pro Tools 12.6でフィーチャーされている機能の幾つかの開発行程をフォローしてくれたのです。

Pro Tools 12.6に搭載されている機能の数々が完成するまでには、長い時間を費やすことになりましたが、その結果は素晴らしいものになりました。では、その歴史を振り返ってみましょう。

 

歴史の始まり

時計を少し巻き戻してみましょう。

私たちは、アジア・パシフィックで最大規模を誇り、様々なタイプのコンテンツ制作を手がける、ある放送局のサウンド・エンジニア・チームと、Avidが提案しているオーディオ、ビデオ、ストレージ、アセット管理に関する意見交換を行い、次世代のポスト・プロダクション・オーディオに何が求められているのかを探求していました。

私たちは、そのサウンド・チームが既に確立していたワークフローを大きく変えることなく、より効率化する方法がないかを模索し、それに対する意見をいただくことから作業を開始しました。

彼らの答えは非常に明解で、「Pro Toolsを初め、他のDAWやコンソールを使った現在のサウンド・デザイン・ワークフローに対して、Avidが何をできるかに興味があるし、それが他の世界中のPro Toolsユーザーの為にもなるのであれば、喜んで協力しましょう」というものでした。

機能追加自体も素晴らしい事です。しかし、それらがどのように、全てのユーザーの作業効率化に対して貢献できるかが、より大切なことなのです。

チームが始めたのは、それぞれがリストアップしていったアイディアやリクエストが、他のユーザーにとっても有意義なものであるかどうかの検討でした。そしてその答えが「Yes」であることが確信されたものに関して、具体的な作業が開始されたのです。

幾つかのアイディアの中には、誰しもが難しいと考えるであろう、これまでのPro Toolsの編集モデルそのものの変更に関するものも含まれていました。

数多くのミーティングを経て様々な意見交換が行われ、ユーザー視点からのPro Toolsに対するフィードバックがAvid内の様々な部門でも共有されることにより、そのリクエストの本質に対する理解が深まり、現実的なワークフローに沿った具体的な機能の形になっていきました。

実際には、時差や言語の壁、そして多くの様々な部署に跨ったコミュニケーションが必要になったことなどにもより、フィードバックの内容が正しく伝わらなかったケースもありましたが、それらの苦労は、生まれた結果の大きさから見ると非常に小さなものだったと言えるでしょう。

 

開発の本質

報道/情報、エンターテイメント、スポーツ、音楽、ドラマ等、様々な分野で一流のコンテンツを制作/提供している放送局のサウンド・エンジニア・チームがカバーしなければならない作業内容は、信じられない程多岐に渡っており、またそれらを厳しい時間制限の中で、素早くかつ正確に実現しなくてはなりません。

今回の新機能開発過程を通じて、そういったエンタープライズ・レベルのコンテンツ制作の中では、音声/音響効果/ミックスなど、それぞれの作業で、 クリックやボタン・プッシュの頻度が少し変わるだけでも、全体の作業効率が大きく向上するということも、改めて認識することができました。

オーディオ・ポスト作業に関わる方であれば、数千を超えるクリップを持ったAAFファイルが映像セクションから届き、そのタイムラインに載っている全てのクリップが適切な状態かを確認した上で、フェード、EQそしてダイナミクス処理を行うといった整音作業が、どれほど大変であるかご存知のはずです。そしてそれら全ての作業は、ナレーション録りやミックスの前に行われなくてはならないのです。

40を超えるMA/ミキシング・ルームで、延べ100名以上にもなるオーディオ・オペレーターが、毎日のようにこれらの作業を行っている事を考えると、例えそれが小さな機能改善であっても、それによって得られる効果は莫大な効率化につながり、スケジュールや全体予算の管理にも大きく貢献できるということが、ご理解いただけると思います

 

12.xの追加機能ハイライト

実はPro Tools 12.6以前でも、このサウンド・エンジニア・チームからのフィードバックが生かされた機能が備えられていました。

Pro Tools 12.3に搭載されたクリップ移動時の波形透過表示機能は、それまで黄色い枠線表示だけだったクリップ移動時の表示を透過型にすることで、下層部の波形の状態を確認しながらクリップ移動が可能となり、ダイアログやミュージックの調整作業が、より簡単に実行可能となりました。

->クリップ波形透過表示をオンにするには、表示メニュー→クリップ→透過表示を有効化します。

Pro Tools 12.3には、さらに新たに”バッチ・フェード・ウインドウ”も加わりました。ここではプリセットやショートカットに加え、例えば既にフェードがある場合に、長さは変えずにシェイプのみを変更 するというような、より先進的なオプション が用意されています。

このオプションをうまく活用することで、AAFインポートを行った後、全てのクリップを選択し、ビデオ編集側で既に施されているフェードは保持しながらも、フェードが施されていないイン/アウト部分に対してのみ新たにフェードを加え、スムースなトランジションを素早く構築するといったこともできるのです。

->バッチ・フェード・ウインドウは、複数クリップを選択してショートカットCommand + Fを押すと表示されます。また、control +1-5でプリセット1-5を呼び出すことも可能で、さらにEuCon対応サーフェイスをお持ちならキーボード無しでフェード・ウインドウの機能を直接操作することもできます。

12.6新機能!

ここからは、いよいよPro Tools 12.6の新しい機能と、それらがどのような考えで開発されたか見ていきましょう。もちろんオーディオに関する「ルール」は多く存在しないと個人的には思っているので、ここで説明する考え方に縛られることなく、世界中の様々なPro Toolsユーザーが、これらの機能の、さらにユニークな活用法を編み出していくことでしょう。

クリップ・エフェクト-クリップ単位でリアルタイムに実行可能なエフェクト機能で、インプット・ゲイン、位相、EQ、フィルターそしてダイナミクスが備わっています。整音作業時に素早く実行できるようショートカットやプリセットも装備されています

これまでのPro Toolsでも、同様の処理は様々な工夫を行うことで実行できていたかもしれません。しかし、この新たに加わった「クリップ・エフェクト」を実際に使用し、その利便性/効率性を経験すると、「クリップ・ゲイン」がなかった頃のPro Toolsに戻ることができないと感じるのと同様に、「クリップ・エフェクト」がなかった頃に戻るのは困難だと感じる程、ポジティブなインパクトを与えてくれるでしょう。

この機能は、トラック上のオーディオの整音を行うPro Toolsオペレーターやダイアログ・エディターの作業を改善するためのクリップ・ベースでのリアルタイム ・エフェクトです。以前はファイル・ベースで処理を施すAudio Suiteやオーメーションで作業を行っていましたが、AudioSuiteレンダーを元に戻すのはひと手間かかりましたし、オートメーションは、理想的にはミキシング・エンジニアのために取っておきたいものです。

この機能をデザインするにあたり、チームが最もこだわったのは、いかに簡単にかつ素早くアクセス/実行できるかということでした。

クリップ・エフェクト・ウィンドウの表示/非表示、プリセットの選択、コピー/ペーストは、それぞれショートカットで実行できます。個別のクリップはもちろん、複数のクリップに対しても操作を行えます。異なるエフェクト設定を持つ複数クリップを選択している場合は、操作したパラメーターのみが反映されます。例えば、複数クリップを選択し、それぞれのバンド設定を維持したまま、選択した全クリップのハイパス・フィルターのみを調整するといったことができるのです。クリップ・エフェクトはAvid ChannelStripプラグインを基にしており、HDユーザーは全設定にアクセスできます。その他のPro Toolsユーザーはクリップ・エフェクトの再生、レンダー、バイパスが行えます。

->クリップ・エフェクトのコントロールは、ユニバース・バー内のアイコンをクリックするか、ショートカットのOption + 6(テンキー)で表示できます。また、初期設定のオプションで、数字キーを使ってプリセットをシングル・アクションで適用することも可能です。また、EuConソフト・キーを用いて、素早くオペレーションすることもできます。

レイヤー編集機能

これまでの編集モデルに慣れ親しんだPro Toolsを長くお使いのユーザーの方々は、既に確立した編集ワークフローがあり、それをそのまま継続したいと思う方も少なくないでしょう、また、逆により効率的な編集ができるなら、それを取り入れたいと思う方もいらっしゃると思います。

基本的にPro Toolsはタイムライン上のトラックをフラットなものとして取り扱ってきました。それゆえタイムライン上のクリップを編集で削除すると、タイムライン上のその部分は、空白に変わります。

そのため、既に存在しているクリップ上の一部分にナレーションを録音したり、小さなサウンド・エフェクトを置いた場合、その小さなクリップをカットすると、その部分が空白になっていました。

その消えた部分を復元するには、「クリップの分割を戻す」機能を使ったりトリミングをして元のクリップを引き伸ばすといった作業と工夫が必要でした。

Pro Tools 12.6では、ツール・バー上から”レイヤー編集”モードをオンにすることができるようになりました。このモードを使用すると、下のクリップが完全に別のクリップに覆われていない限り、上のクリップを移動、ナッジ、削除しても、下にあるクリップのデータ表示は維持されます。

この「レイヤー編集」モードはオプションであり、この機能をオフにしてこれまで通りのPro Tools編集モデルで作業を行うこともできます。オン/オフは簡単にできますので、用途に応じて使い分けても良いでしょう。このように開発チームは可能な限り以前のワークフローを維持する努力もしています。

では、録音、コピー/ペースト、長いクリップのドラッグなどの操作で、クリップが完全に覆いかぶさってしまった場合 はどうなるのでしょう?

その答えは、”プレイリスト機能の強化”によって導き出されました。

プレイリスト機能の強化

ご存知のようにプレイリストは非常にパワフルなツールですが、これまでは、そのトラックにプレイリストがあるかどうか、簡単に見分けられませんでした。そのため、代替テイクを探すのに無駄な時間をかけてしまうことも度々ありました。この課題は、Pro Tools 12.6で複数プレイリストの存在を示すシンプルな「青色」のインジケーターが追加されることによって解決されました。

これまでプレイリスト機能は、プレイリスト・ビューを展開して使用していました。これは画面のスペースを取る他、外部ミキサーを使用している環境ではトラックのルーティングの把握が難しいケースもありました。

Pro Tools 12.6ではShift + ↑ または Shift + ↓でプレイリストを切り換えることができます。これにより全てのプレイリストを展開表示しなくても、あるプレイリストから別のプレイリストへ、必要な部分をコピー/ペーストしたり、ディレクターやプロデューサーに別テイクを聴いてもらうといったオペレーションも素早く実行可能となります。

プレイスト機能には、新たに任意のクリップを新規または指定したプレイリストに送るという機能も追加されました。この機能の活用法として、テイク番号やレーティング別にプレイリストを事前に準備したセッション・テンプレートを使ってナレーションの録音を行ったら便利ではないでしょうか?

ここで話を、クリップが「完全に覆いかぶさった」場合の話に戻しましょう。

12.6には、初期設定内に新しく「完全重複されたクリップを別プレイリストに移動」というオプションが加わり、録音もしくは編集時 に実行できます。このオプションもニーズに合わせて活用することで、これまでのワークフローに慣れているユーザーにとっても有意義なものとなるでしょう。

この機能は、トラック上にある既存のクリップが、新たな録音や編集作業によって完全に覆われてしまった場合、それがタイムライン上からなくなってしまうのを防ぐため、自動かつインテリジェントに別のプレイリストに送るというものです。この機能を活用することで、ナレーション録音時に前のテイクの保全を気にすることなく、すぐに新しいテイクの収録を行なったり、ワークスペースから大きなクリップをトラックにインポートした際に、下のクリップを消してしまうといったアクシデントを防ぐことも可能となります。

新たなプレイリストが作成される際には、送られたクリップの名前が反映されます。また、複数のクリップがオーバーラップされる場合は、常にその「塊」単位でプレイストへと送られますので、元の状態がどのようなクリップ・アレンジであっても確実に再現することが可能です。

12.6ではその他にも、セッション内の状態を示す新たなインジケーター、HDX 1台での「ダバー」ワークフローを実現する「イン・ボックス・ダバー機能」や、フェード・カーブのダイレクト編集機能等も追加されています。

Pro Tools 12.6はこれまでアップグレードを躊躇していた方々にとっても価値あるものとなるでしょう。特にクリップ・エフェクトやイン・ボックス・ダバーが実行可能となったPro Tools HDは、より魅力的になりました。

最後に、Pro Tools 12.6の誕生にご協力頂き、全てのPro Toolsユーザーに役立つ新機能/ユーザビリティーという視点から、多くのアイディアをご提供いただいた熱心な日本のユーザーの皆様に深く感謝致します。

では、これまで説明してきた機能を含む「Pro Tools 12.6新機能概要紹介」ビデオを是非チェックしてみてください。

創ろう、つながろう、そしてチャンスを掴もう

Pro Toolsで成功する

業界トップのツールを使って、サウンドをパワーアップ。映画/テレビ用の音楽やサウンドの制作から、世界中のアーティスト、プロデューサー、ミキサーとのコラボレーションまで自由自在です。

LEARN MORE

オーディオ・エンジニア、サウンド・デザイナー、ミキサー。アビッド・テクノロジー株式会社のオーディオ・アプリケーション・スペシャリストとしても活躍中。