映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』サウンドプロダクション・ストーリー

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今夏劇場公開され、大きな話題を呼んだ映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』。世界が待望する『ファイナルファンタジー』シリーズの最新作『ファイナルファンタジーXV』(2016年11月29日世界同時発売)のアナザー・ストーリーを、ゲームと同じ世界・時間・キャラクターで描いたフルCGの超大作です。その音響制作のメイン・ツールとして活用されたのが、複数台のPro Tools | HDXシステムと最新のPro Tools 12。効果音/フォーリー制作から音楽のレコーディング、ロサンゼルスで行われたプリ・ダブ、そして東宝スタジオで行われたファイナル・ミックスに至るまで、Pro Toolsがフル活用されました。そこでAvidでは、『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』のスーパーヴァイジング・サウンド・エディターを務めた菅沼篤氏(スクウェア・エニックス)と、フォーリー制作/ファイナル・ミックスを手がけた笠松広司氏(デジタルサーカス)の両氏にインタビュー。今作のサウンド面でのコンセプトとワークフローについて話を伺いました。

『ファイナルファンタジーXV』のアナザー・ストーリーをフルCGで描いた『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』

 

——— 話題の『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』は、大ヒット・ゲーム『ファイナルファンタジー』シリーズをモチーフにしたフルCG映画ですが、ゲームとはどの程度ストーリーはリンクしているのでしょうか。

 

菅沼 ゲームの方は11月29日に最新作、『ファイナルファンタジーXV』が世界同時発売になるのですが、完全にリンクした内容になっています。簡単に紹介すると、『ファイナルファンタジーXV』と同じ世界の同じ時代に、別の場所で起こっていたことを描いたのが『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』なんです。『ファイナルファンタジーXV』は、主人公である王子の視点で話が進行していくんですが、『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』は王子の父、国王レギスの視点で父と子の絆を描いた作品となっています。もちろん、映画だけでも十分楽しめる内容になっているんですが、ゲームをプレイする人はもっと深く『ファイナルファンタジー』の世界を堪能できると思います。

『ファイナルファンタジー』は、1987年から続いているシリーズで、世界中に多くの固定ファンがいるんですが、ゲームをやらない人にもその世界を知っていただきたいなと。そういった想いから制作したのが、『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』なんです。フルCGで制作したのも、ゲームの世界をなるべくそのまま知ってもらいたかったからですね。

——— 今作における菅沼さんと笠松さんの役割をおしえていただけますか?

 

菅沼 私は、サウンドのトータル・ディレクションを行うスーパーヴァイジング・サウンド・エディターとして制作に携わっています。『ファイナルファンタジー』シリーズに関しては、2009年の『ファイナルファンタジーXIII』を皮切りに、2011年の『ファイナルファンタジーXIII-2』、2013年の『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』を手がけてきました。もちろん、最新作の『ファイナルファンタジーXV』も手がけています。

 

笠松 私は、フォーリー全般の録音とファイナル・ミックスを担当しました。『ファイナルファンタジー』シリーズの制作に直接関わったのは今作が初めてで、この後発売になる『ファイナルファンタジーXV』は手がけていません。ただ、この前の映像作品である『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』は、ウチのスタジオ(註:デジタルサーカス)でフォーリーを録音しています。

 

——— スーパーヴァイジング・サウンド・エディターの仕事について、あらためておしえていただけますか。

 

菅沼 ハリウッドではお馴染みの肩書きなんですが、音楽以外のサウンド全般の監督です。ゲーム制作におけるサウンド・ディレクターとほぼ同じ役割ですね。監督と直接やり取りしながら、効果音やダイアログなど、音楽以外のサウンドの方向性を決めながら実際に作業を行っていきます。音楽については、楽曲の内容については関わらないのですが、音響的な衝突を避けるため、ミックスには関わることもあります。

#1:効果音制作 〜 現実の音素材をいくつもレイヤーし、非現実的な音を構築 〜

 

——— 効果音制作に入る段階で、野末武志監督からはどのようなリクエストがあったのでしょうか。

 

菅沼 ゲームとの融合性を一番に考えてほしいというお話がありました。ゲームと同じ世界の話なので、まったく同じ素材を使用し、同じ世界観を表現してほしいと。また、今回の作品は日本だけでなく海外での配給も決まっていたので、ワールドクラスのサウンド・デザインというのも求められましたね。つまり今回は、いつも以上に高いハードルを設定する必要があったんです。これは個人的にも大きなチャレンジでした。

 

——— 具体的なコンセプトの提示もあったのですか?

 

菅沼 監督は、できるだけ“信憑性のある音”にしたいとおっしゃっていました。例えば、劇中に登場する魔法やモンスターというのは、非現実的なものです。しかしそういった非現実的なものから発せられる音も、まるで現実にあるかのような音にしてほしいとリクエストされたんです。その結果、これまでの作品とはまったく異なるアプローチでのサウンド・デザインが必要となり、効果音に関しては歴代『ファイナルファンタジー』シリーズで使用していた素材を一切使用することができませんでした。『ファイナルファンタジー』シリーズは歴史ある作品ですから、凄い量のライブラリー資産があるのですが、今作の効果音はすべてゼロから制作しています。

——— 効果音の制作はどこで行ったのですか?

 

菅沼 いつもだったら会社のオフィスにあるプライベート・スペースで作業を開始するのですが、今回はとにかく高いクオリティが求められていたので、最初から弊社のスタジオで作業を行いました。スタジオのPro ToolsはHDXシステムで、ソフトウェアはバージョン10と12。効果音は基本モノラルで制作し、ミックスで5.1chに仕上げました。セッションのフォーマットは、24bit/48kHzです。

 

——— 作業に入る段階で、映像はどの程度できているのですか?

 

菅沼 ほとんどできあがっていないため、簡単なVFXイメージを元に、ある程度想像しながら作業を開始しました。効果音制作の期間は約8ヶ月で、その間に映像はどんどん上がってきます。もちろん、映像に合わせて音を作り直さなければならないことも多々ありましたので、作業はかなり大変でしたね。映像に関してはPro Toolsのビデオ・トラックに読み込み、マルチ・ディスプレイでHDMIから出力してモニターしました。

 

スクウェア・エニックスの菅沼篤氏

——— 効果音制作の具体的なフローについておしえてください。

 

菅沼 いろいろな素材を集めて、どんな音が合うのか探るところから作業はスタートします。例えば『ファイナルファンタジー』シリーズでお馴染みの雷の魔法、“サンダー”は、今作では手から発することが決まっていました。そこで、まずは監督からなぜ“サンダー”が手から出るのか、そのコンセプトをおしえてもらい、それに基づいてどうやって表現するのがベストか探っていったのです。当たり前ですが普通は手から雷は出ないので、最初にどうすれば手から雷が出るのかということを考えます。実際に手から雷が出たら耳が聴こえなくなるくらい大きな音なんじゃないか、大爆発のような衝撃が起きるんじゃないか、雷を発することによって手の皮や爪は剥がれてしまうんじゃないか、もし皮や爪が焼けただれた場合はどんな音がするんだろうか…… こんな風にイメージをどんどん膨らませていくんです。そしてそのイメージを、自分で録り貯めた素材を組み合わせることで具現化していきます。本物の雷の音に、髪の毛が焼けたような音を混ぜてみたり、素材を足したり引いたりして音を構築していくんです。監督のリクエストに従って、現実と非現実のバランスを取りながら作業を進めていきました。

 

——— 素材はPro Toolsのオーディオ・トラックにインポートし、そのレイヤーで音を作っていく感じですか?

 

菅沼 そうですね。レイヤーでの音作りが基本になります。

 

——— どれくらい素材をレイヤーさせるのでしょうか。

 

菅沼 当然、音によって違ってきます。例えば、冒頭の戦闘シーンで使用した岩や瓦礫が落ちる音の場合、現実にはありえないくらい大きな音を表現したかったので、積極的なサウンド・デザインを行いました。具体的には、1つの岩の音につき10トラックくらい素材を重ね、さらに本当に岩が崩れ落ちる音など、別の素材を混ぜたりしましたね。そういった音作りでは、トラック数はかなり多くなります。

 

——— 音作りではプラグインも多用されるのでしょうか?

 

菅沼 いいえ。自分の場合、基本的にプラグインによる加工はほとんど行いません。レベルの変更や、タイム・ストレッチといった基本的な処理は行いますが、できるだけ元の素材の音を活かすのが好みなんです。特に今回の作品では、作られた音ではなく現実に存在するような音が求められていたので、素材は極力加工せずに使用しました。効果音を作る際にプラグインを多用する人もいますが、自分はそういったアプローチはあまり好みではありません。どうしてもプラグインを使わなければならない場合でも、スタジオ間の互換性の問題を考慮し、なるべくサード・パーティー製のものは使用しないようにしています。使ったとしてもAudio Ease Altiverbくらいですね。

取材が行われた東京・曙橋の楽音舎スタジオ2001

——— 使用する素材は、ご自身で録音されたものが中心になるのでしょうか。

 

菅沼 なるべく自分で録音するようにしていますが、例えば何かが燃えている音のよう録るのが難しい音の場合は市販のライブラリーを使用します。自分で録音した素材とライブラリーの割合は大体半々くらいですね。

 

——— ソフトウェア・インストゥルメントなどは使用していないのでしょうか?

 

菅沼 サンプラーとしてNative Instruments Kontaktを使うくらいで、それ以外はほとんど使わないですね。Kontaktでは既存のライブラリーだけでなく、自分で録音した音素材を鳴らすこともあります。ピッチなどをMIDIでコントロールしたり、キーボードでレイヤーを作って鳴らしたいときなどに重宝しています。

 

——— 今作では最終的にどれくらいの数の効果音を作られたのですか?

 

菅沼 多すぎて憶えていません(笑)。やり直しも多かったですし、実際の映画の長さに対して3本分くらいの音を作ったんじゃないでしょうか。

 

——— 特に苦労した音というと?

 

菅沼 “オルトロス”というタコの形をしたモンスターの鳴き声は何度もやり直したので個人的に思い入れがありますね。最後の最後までOKが出ずに苦労したんですよ。最初はいろいろな動物の鳴き声を使用していたのですが、監督の本当に求めていたサウンドに仕上がるまで何度もリテイクを行いました。また他の音に関しても、最初OKが出た後に映像が上がって全体の流れを確認した時点でリテイクとなることも多かったですね。

#2:フォーリー制作 〜 音を途切らさずに録音することで、空間ごとキャプチャー

 

——— フォーリーの録音はどのように進められたのですか?

 

笠松 フォーリーに関しては、ウチのスタジオ(註:デジタルサーカス)で今年の1月から作業を始めました。フォーリーは映像が固まってからでないと始められないので、映像のフィクスをある程度待ってから作業を開始します。監督からお話を伺った時点で、あまり奇をてらったことはやる必要ないと分かっていましたので、基本的にはいつもどおりの方法で録音を進めていきました。

 

——— どなたかフォーリー・アーティストにお願いされたのですか?

 

笠松 いいえ。私の場合は自分で演じます。Pro Toolsのオペレーションはスタッフにお願いし、ペアで作業を進めていく感じですね。フォーリーの録音で使用した機材は、Pro Tools | HDXシステムとオーディオ・インターフェースがPro Tools | HD MADIで、ADコンバーターとしてはSystem-5内蔵のものを使用しました。

 

——— 音は録音時にかなり作り込まれる感じですか?

 

笠松 そうですね。私の場合は、マイクとプリアンプの組み合わせである程度音を作ってしまいます。今回プリアンプは、Focusrite ISA 115 HDとManley Slamを使用しました。長年使い慣れているISA 115 HDを基本に、少しトリッキーなことをやりたいときにSlamを選ぶという使い分けですね。ISA 115 HDは、EQの感覚を体が覚えてしまっていますし、もはや手放せない機材です。マイクはここ数年、BlueのBaby Bottleを愛用しています。マイクの出力が高いので、S/Nが稼げる点が気に入っているんですが、比較的安価なので万が一水没しても精神的なショックが少ないのもいいかなと(笑)。

 

——— ダイナミクス系のアウトボードは挟まない?

 

笠松 コンプレッサーとしては、UREI LA-22を使用しています。以前、パーカッションの録音でエンジニアさんが使っていたのを見て気に入ってしまったコンプレッサーなんですが、アタックが凄く速くて生音に向いてるんですよ。

デジタルサーカスの笠松広司氏

——— 録音後はどのような処理をするのですか?

 

笠松 細かい補正をしたり、アンビエンスを少し加えたりする程度です。大きく音を変えるような加工は滅多にしません。レベルに関しても、自分の場合は録りの段階である程度決めてしまうことが多いですね。

 

——— 笠松さんがフォーリー録音でこだわっていることと言うと?

 

笠松 好みの問題だと思いますが、私は途切れ途切れの素材を使うのがあまり好きではないんです。例えば、歩いてる人が砂利の上で立ち止まるというシーケンスの場合、止まっているときもちょっとした荷重移動で音が鳴ったりしますよね。そういう部分も含めて、空間ごとキャプチャーしたいなとここ数年は考えていますね。

 

——— 今作のフォーリーで最も印象に残っている音と言うと?

 

笠松 先ほど菅沼さんが、非現実音も現実に存在するものとして見せる必要があったとおっしゃっていましたが、フォーリーも同じコンセプトで制作しました。例えば、ワープした瞬間に小さい魔法のかけらが地面に落ちるような表現があるのですが、かけらを一つずつを追いかけて音を作ったり。また、先ほども話に出たモンスター、“オルトロス”の音はおもしろい出来になったんじゃないかと思います。この手のモンスターは、フォーリーと効果音とボイスが組み合わさって初めて成立するので、みんなの努力の結晶と言えると思いますね。

楽音舎スタジオ2001のSystem-5

#3:プリ・ダブ 〜 各分野のスペシャリストが同時進行で作業を進めることで、時間を最大限有効活用 〜

 

——— 今作では、グレッグ・ラッセル(Greg P. Russell)がリ・レコーディング・ミキサーとしてクレジットされていますが、ダビングはどこで行われたのですか?

 

笠松 ロサンゼルスのTechnicolorです。日本で準備した素材をアメリカに送り、グレッグに効果音のプリ・ダブを行ってもらいました。基本的にプリ・ダブはすべてアメリカで行っています。そのデータを日本に持ち帰りファイナル・ミックスを行うという流れで、ファイナル・ミックスは私が行いました。

 

菅沼 監督のワールド・クラスの作品に仕上げるという意向がありましたので、いろいろ検討した結果、200本以上のハリウッド作品を手がけるロサンゼルスのトップ・エンジニアの一人、グレッグにお願いすることにしました。スタジオに関してはいろいろ候補はあったのですが、過去にTechnicolorで制作された作品が今作のサウンド・デザインの方向性と合致していたからです。もう絶対にここじゃないと、という感じでしたね。

 

Technicolorで作業を行うグレッグ・ラッセル氏

——— Technicolorでのプリ・ダブ作業には、菅沼さんも参加されたのですか?

 

菅沼 はい。他の方々はスケジュールの関係で行けなかったので、私が単身アメリカに渡り、4月の中旬から5月の始め頃までグレッグと一緒に作業を行いました。作業期間は大体25日くらいでしたね。今回、作業のやり方などはグレッグに伝えず、基本的には彼の方法論でプリ・ダブを進めてもらいました。お互い初めて仕事をする相手で、最初は手探り状態だったんですが、作業はとてもスムーズでしたね。国籍は違いますが音を作る作業は共通ですので、まったく違和感はありませんでした。一方、音楽に関しては、同時進行でOcean Way Nashvilleで録音が行われました。なので我々がプリ・ダブを作業している最中に、次々と録りたてのトラックが送られてきたんです。また効果音は、プリ・ダブを開始する時点ですべて揃ってなかったので、監督からの指示に従って現地で作り直していましたね。

 

——— Technicolorの作業環境についておしえてください。

 

菅沼 コンソールはSystem-5です。しかし日本に持ち帰ってファイナル・ミックスを行う必要があったため、グレッグにはPro Toolsセッションで完結するような形で納品して貰いました。具体的には、System-5でミックスした音を一つずつセッションに録音していった感じですね。グレッグはPro Tools内で完結して納品することが普段あまりないらしく、これから必要になるはずだから勉強になったと言っていましたよ。

Technicolor

——— グレッグさんはミックスでどのようなプラグインを使用していましたか?

 

菅沼 Pro Multiband DynamicsやPro Subharmonicなど、AvidのProシリーズをメインに使用していましたね。それとミックスを通してExponential AudioのPhoenixVerbを使用していたのが印象的でした。

 

——— グレッグさんのミックスは、何か独特な点はありましたか?

 

菅沼 テクニカルなことよりも、チームワークが凄かったですね。各分野のスペシャリストたちが、それぞれの仕事を同時に進めていく。それによって時間を最大限有効活用しているんです。グレッグさん、彼のアシスタント、ダイアログのミキサー、コンソールやセッションのレイアウトを管理するミックス・テクニシャン、音声編集が必要なときにその場で編集を行うサウンド・エディター、この5人が常に同時進行で動いていました。

Technicolorで作業を行うグレッグ・ラッセル氏

#4:ファイナル・ミックス 〜 ダイアログと効果音だけでサウンドを成立させてから、音楽をのせて細かい修正を行う 〜

 

——— プリ・ダブを終えてアメリカから戻った後の工程について教えてください。

 

笠松 プリ・ダブ完了後はすべての素材を集めてファイナル・ダビングを行いました。最終的なファイナル・ダビングは東宝スタジオのダビング・ステージ(東京・成城)で行ったのですが、その前段階でこのスタジオ(註:東京・新宿御苑の楽音舎スタジオ2001)で追い込めるところまで追い込んでから東宝スタジオに持ち込みました。

 

菅沼 もの凄い物量ですので、すべてを東宝スタジオでやると相当日数がかかってしまうんです。ここで前準備をしたおかげで、東宝スタジオでのファイナル・ダビングは4日間で終えることができました。

 

——— ファイナル・ダビング時のシステムについておしえてください。

 

笠松 効果音用、ダイアログ用、音楽用とPro Tools | HDXシステムを3台走らせ、ミキシング・コンソールにはSystem-5を使用しました。Pro Tools | HDXシステムとSystem-5の接続は、Pro Tools | HD MADI経由のMADIですね。

 

——— 効果音やダイアログ、音楽は、Pro Tools内でどのようにまとめられているのですか?

 

菅沼 効果音に関しては、BG、フォーリー、ハード・エフェクト、魔法、モンスターといった感じで分類し、5.1chのステムを12グループに分けて出力しました。音楽は8本のステムで構成された5.1chミックスを2セット出力したのですが、ステムが細かく分かれていたので、後での調整が非常にラクでしたね。ダイアログは本線、ガヤ系、無線などの加工された音声といった感じで4つのグループに分けて出力しました。

最終的にはSystem-5でミックスを行ったわけですが、実際には純粋なサミング・ミキサーとしてしか使用していません。それによってここ(註:東京・曙橋の楽音舎スタジオ2001)でも東宝スタジオでも、Pro Toolsセッションを立ち上げるだけで同じ状態を再現することができたのです。結局、東宝スタジオでの作業でも、コンソールはサミング・ミキサーとしてしか使用しませんでした。

——— 具体的なミキシングの流れについておしえてください。

 

笠松 私の場合、まずはダイアログと効果音だけでサウンドを成立させてから、音楽をのせて細かい修正を行います。プラグインは、マルチバンド・コンプやディエッサーなど、定番のものしか使いませんね。

 

——— 監督から細かい指示はありましたか?

 

菅沼 大きな流れの中で、ここは音楽を大きくしてほしいとか、その程度でした。ただ、監督はロサンゼルスでのプリ・ダブに立ち会わなかったので、万が一リテイクとなった場合でも最低限の作業で済むように、ステムをできるだけ細かく分けてミックスに臨みました。もし変更があった場合は、そのステムだけプリ・ダブに戻って修正できますからね。

 

——— ファイナル・ダビングで苦労した点と言うと?

 

菅沼 苦労よりも勉強になったことの方が多かったですね。今作は、素材を用意したのは日本人、ファイナル・ミックスを行ったのも日本人なんですが、最終的に少し洋画の手触りがする作品に仕上がったと思います。ただ、監督が求めていたワールドクラスの作品になったという意味では良かったのですが、ちょっと悔しくもありますね(笑)。プリ・ダブを手がけたグレッグの技によるものなのか、あるいはTechnicolorというスタジオの魔力なのか…… いろいろ分析してみたんですが、理由はよく分かりません(笑)。

 

——— 今作の作業では最初から最後までPro Toolsが使用されたわけですが、特に便利だった機能はありますか?

 

笠松 トラック・コミットとトラック・フリーズが付いたのは個人的にかなり大きかったですね。レイテンシーのあるプラグインを使う場合、パラメーター設定を残したままオーディオとして簡単に書き出すことができるので、とても重宝しました。

 

菅沼 今回、弊社のスタジオやTechnicolor、笠松さんのスタジオ、東宝スタジオのダビング・ステージといろいろなところで作業を行ったわけですが、Pro Toolsが無ければ成立しなかったと思います。世界中どこのスタジオに行ってもPro Toolsが置いてありますし、言葉が通じなくてもPro Toolsで通じることができる。今回の制作を終えて、世界を相手にする作品はPro Toolsじゃないとダメだと改めて実感しましたね。

 

——— これから作品を観る人に、特にここを聴いてもらいたいという場面はありますか?

 

菅沼 冒頭の20分のシーンはぜひ見ていただきたいですね。非常に没入感のある仕上がりになったと思います。また、ゲーム版と共通の素材を使っているんですが、銃火器の効果音にも注目していただきたいです。今回はカリフォルニアで録音した本物の銃の音を使用したんですよ。銃の録音のスペシャリストを呼んでコストをかけて制作しただけあり、とても良い音になったのではないかと思います。

 

笠松 私は個別の場面というより、全体の質感を聴いていただきたいですね。日本人が作ったのに洋画の手触りがする作品になったと思います。音楽も素晴らしいですしね。

カリフォルニアでの効果音の収録の様子

——— 最後に、映画のサウンド・デザインやミックスに興味を持っている若者に向けてメッセージをいただけますか?

 

菅沼 音楽制作にも言えると思うのですが、自分の好きな音を作ることと、仕事としてクライアントの商品のために音を作ることでは、まったく別のスキルが必要になります。これはサウンド・デザインを志す人が最も苦労するところかも知れませんね。こればかりは経験を積まないとダメだと思います。

 

笠松 技術的なことを勉強するだけでは、ある程度のレベルまでしか行かないと思うんです。その先は各人が持っている感覚やセンスの方が重要になってくる。残酷な言い方ですが、学校で一生懸命勉強したからと言って、良い音が作れるようになるわけではありません。私からのアドバイスとしては、できるだけ多くの作品に触れた方がいいということ。そしてサウンド・デザイナーを志しているからと言って、効果音だけに耳を傾けるのではなく、ダイアログや音楽など、すべてのサウンドを聴くことが重要です。とにかく、あらゆる方向にアンテナを張り巡らせた方がいいですね。

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