作曲家:瀬川英史氏に訊く、Pro Toolsを使った映画音楽の作曲術

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劇伴作曲ツールとしてもスタンダードの地位を確立しているPro Tools。HDXシステムのパワフルな処理能力、各種ビデオ・ファイルとの高い互換性、複数システムを簡単かつ高精度に同期できるSatellite LinkといったPro Toolsならではのフィーチャーは、世界中の劇伴作曲家にとって無くてはならないものになっています。大ヒットした映画『銀魂』やテレビ・ドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』など、様々な映像作品の音楽を制作している瀬川英史氏も、Pro Toolsを長年愛用し続けている作曲家の一人。現在、ロサンゼルスに拠点を置く氏のスタジオでは、6台のMacとPro Toolsシステムが休むことなく稼働しています。先ごろ録音のために帰国した瀬川氏に、Pro Toolsを使った映画音楽の作曲術について話を伺いました。(写真:三嶋一路)

瀬川英史

アメリカはここ10年くらいの間に、楽曲の“イン点”がどんどん早くなってきている

——— 瀬川さんはここ数年、福田雄一監督の作品を多く手がけられていますね。

 

瀬川 そうですね。『勇者ヨシヒコ』シリーズ、『アオイホノオ』、今年公開された映画の『銀魂』……。もう10本以上はやっているんじゃないかと思います。

 

——— これまでたくさんの監督と仕事をされてきたと思いますが、作曲家から見て福田監督はどんなタイプの監督ですか?

 

瀬川 福田さんは、編集が済んだ映像と合わせたときにしか(楽曲の良し悪しを)判断しないんです。だからピアノ・スケッチ程度のものを聴かせるわけにはいかない。自分で言うのも何ですけど、ぼくはモックアップを作るのが上手くて、最初から完成形に限りなく近い形で提出するので、多分それが監督的にはいいんじゃないかと思うんですよ。だからモックアップが苦手な作曲家だと、多分厳しいんじゃないかと思います。モックアップのクオリティーに関しては、アメリカの“モックアップ・オタク”に相当影響受けましたね。

 

——— ラフなデモではダメということですね。

 

瀬川 そう。これは福田監督に限った話ではなく、スケッチのようなデモだと“よくわからない”と言うプロデューサーも多いですよ。それと福田監督の場合、制作の前に音楽に関して打合せをした記憶って全然ないんです。とりあえず一旦はこちらの好きなようにやらせてもらえる。もちろん、出来上がったものに対して、“ああしたい、こうしたい”と言われることはありますけどね。“ダメ”というのではなくて、“そっちではなくこっち”という感じで。ただそれがファイナル・ダビングの直前だったりするので(笑)、福田さんの仕事はPro Toolsじゃないと絶対に間に合わない。

 

——— 最近はPro Tools以外のDAWも使用されるんですか?

 

瀬川 ほぼPro Toolsなんですけど、たまに気分転換にAbleton LiveやApple Logic Proで始めることもあります。今年も1本、Logic Proで作り始めた作品がありましたね。Logic Pro、Drummerというドラム音源があって、あれがすごく優秀なんですよ。あとは標準のエフェクトもアップデートのたびに良くなっていて、中でもオーバードライブとかサチュレーター系は本当に良い。アナログ・シンセを取り込んで、ソフト音源と音を馴染ませたいときとかにバッチリ。コーラスやパンナーなんかも良いですし……。Avidのインタビューで、Logic Proを褒めてどうすんだという感じですけど(笑)。でも、LiveやLogic Proを使うのは本当にたまにで、ほとんどPro Toolsですよ。

 

——— 今日は瀬川さんに、劇伴作曲の最新のワークフローについて伺えればと思っているんですが、最近の日本映画ですと曲作りは公開のどれくらい前にスタートするんですか?

 

瀬川 台本が届いて、そこからスケッチを始める感じですね。ギターを弾いたりしながら。台本は公開の大体1年くらい前に届きます。撮影もそのタイミングでスタートして…… 最近は大体こんな感じのスケジュール感ですね。CGが多い映画ですと、もうちょっと早く撮影が始まることもありますけど。

 

——— 作曲を始める段階で、監督やプロデューサーと密な打ち合わせはあるんですか?

 

瀬川 先ほども言ったように、福田監督の作品に関しては打ち合わせはまったく無いです(笑)。だから『銀魂』のように原作がある作品の場合は、それを読んでイメージを膨らませておく。

 

——— 原作は必ず読む?

 

瀬川 必ず読みます。テレビ版が放映されていた作品は、それも必ずチェックしますし。そうこうしているうちに台本が届くので、それで映画のイメージを掴む感じですね。台本はとても重要で、あれを通して読むとペース配分とか映画のテンポ感がわかるんですよ。30分で読みきれない台本だと、“今回は台詞が多い作品だな”とか。こんなに台詞が多いんだったら、メロディーは細かく動かさない方がいいなとか。だからスタッフには、PDFではなく必ず紙の台本を送ってくれと言います。

映画「銀魂」

©空知英秋/集英社 ©2017 映画「銀魂」製作委員会

——— 『銀魂』は、テレビ・アニメ版も人気でしたが、それもチェックされましたか?

 

瀬川 もちろん見ました。テレビ・アニメ版は、Audio Highsという事務所の先輩が音楽をやっているんですよ。長くやっているシリーズなので、音楽もいろいろなバリエーションがあるんですが、基本はロック。でも実写映画をやるにあたって、その世界観をそのまま持ってくるのは違うなと思ったので、映画は映画でぼくなりの世界観を出そうと考えました。

 

——— 瀬川さんはテレビ・ドラマの劇伴もたくさん手がけられていますが、映画はまた違いますか?

 

瀬川 テレビ・ドラマやアニメって録画すれば見返すことができますけど、劇場で見る映画って基本的にそのとき限りじゃないですか。だから映画の場合は、台詞を聴き逃すことがない劇伴ということを常に念頭に置いていますね。ドラマ以上に台詞を大事にしている。例えば、重要な話をしているシーン、その台詞を聴き逃してしまったら後のストーリーには付いていけなくなってしまうシーンには、メロディーを置かないようにしたり。そのあたりの感覚が、ぼくと福田監督は共通しているんじゃないかなと。他の映画観ていると、そういうキー・ポイントになるシーンでも、裏にメロディーを置いてある場合も多いんですけどね。

 

——— 同じ福田監督の作品でも、映画は少し音楽が抑え気味だったり?

 

瀬川 そうだと思います。だからかもしれないですけど、『銀魂』公開後にTwitterをチェックしたら、“少し音楽が地味だった”とか書かれていました(笑)。今の話をもう少し補足すると、テレビ・ドラマのような連続ものは、同じ音楽を何度も何度も聴かされるわけですよ。そうすると台詞の裏で音楽が鳴っても、意識が奪われないんですよね。判をついたようにお決まりのメロディーが流れるわけですから、耳は自然と台詞の方にいく。逆に映画は、すべてが初めて耳にする音楽なわけですから、台詞があるシーンではできるだけ邪魔な音は鳴らさないようにしようと。

 

——— 映画のタイプにもよると思うんですが、『銀魂』クラスの作品ですと、何曲くらい作られるんですか?

 

瀬川 けっこう作りますね。どれくらいだろう…… 45曲くらいは作るんじゃないかと思います。あんまり曲数は数えないんですけど。中にはSE以上、楽曲未満みたいなものもありますからね。シンセ・パッドが鳴ってるだけだったり。時間で言えば、2時間の映画だったら80分くらいは作ります。トータルで1時間以上はある。これは劇中で使われている曲の長さで、実際に作った曲はもっとあります。

アメリカで暮らして、アメリカのテレビを頻繁に観ているからだと思うんですが、僕のスポッティング(註:音楽をつける場所)は“イン点”が早いんですよ。福田監督と選曲家の小西さん(小西善行氏)は、イン点がぼくの感覚よりも少し後ろなんです。

 

——— アメリカの作品と日本の作品では、曲が流れ始めるタイミングが違うということですか?

 

瀬川 これは意識して作品を見れば分かることなんですが、アメリカはここ10年くらいの間に、楽曲のイン点がどんどん早くなってきているんです。昔は日本のドラマと同じようなタイミングだったんですけど、どんどんイン点が早くなって、結果的に音楽のトータル時間が長くなった。ぼくもそれほどたくさんの選曲家さんと仕事をしたことがあるわけではないんですけど、日本ではカット変わりで音楽をスタートさせるということはあまりないと思うんです。でも最近のアメリカのドラマは、シーンが変わったタイミングですぐに音楽が流れる。テレビを見ていて、いくらなんでもこれは早すぎだろうと感じるのもありますね。まだ台詞が無いのに、音楽で“これはサスペンスのシーンだな”とわかってしまいますから(笑)。最近の『007』シリーズや『インターステラー』も結構早いですね。でもそれは作曲家の好みなのか、ミュージック・エディターの好みなのか、あるいは監督の好みなのかは、その現場にいないとわからないことですが。

 

——— おもしろいですね。

 

瀬川 ここ10年くらいでどんどん早くなってきたと言いましたけど、それより前の『スター・ウォーズ』、あれもイン点がすごく早いんですよね。まぁ、あの映画はストーリーがシンプルなので、音楽で説明するという意図があったと思うんですけど。これは余談ですけど、『スター・ウォーズ』ってアメリカでは珍しいタイプの作品だと思うんですよ。ダース・ベーダーのテーマとか、ルークのテーマとか、各キャラクターにテーマ曲が付いてますけど、ああいうのは50年代の手法で、最近の作品ではほとんどやらないですから(笑)。

 

——— 話を戻すと、アメリカの作品はここ10年くらいでイン点がどんどん早くなってきて、その結果音楽が長くなっていると。

 

瀬川 そうですね。例えば最近の『007』シリーズだと90分以上、100分くらいは音楽があるんじゃないかと思います。昔の映画は60分もなかったと思うので、どんどん長くなっていますね。喧嘩のシーンがあったとして、日本の映画ですと数発パンチが入った後、大技が入ったところで音楽が始まるのが普通だと思うんですけど、最近のアメリカの映画は喧嘩のシーンに切り替わったところで、もう音楽が始まる(笑)。それとアメリカの劇伴の手法で、“Underscoring”というメロディーが無い音楽でシーンの温度感だったり、人物の気持ちを表現するやり方があるんです。ぼくらみたいな仕事をしていないと、コンテンツを観ていても特に気にならないかもしれませんが……。そういうトラックも含むので、アメリカの音楽の尺は長いと思います。

 

——— 台本が届いたタイミングで曲作りを始めるとのことでしたが、最初に手を着けるのはメイン・テーマですか?

 

瀬川 監督からまずはメイン・テーマを聴かせてと言われることが多いので順番的にはそうなるんですけど、ぼくが重視しているのは、ストーリーの中で大切な台詞が出てきたり、大きな転換があるときの音楽。そういうシーンではメイン・テーマが流れることはないんですけど、大切な台詞やストーリーの転換を音楽でサポートしなければならなかったりする。そこをどうするかというのは劇伴作家の重要な仕事だと思っています。その部分のメロディーが映画全体の雰囲気を決めてしまったりするので。

 

——— 作家がメイン・テーマとして作ったのではない別の曲を、監督がメイン・テーマにしたいというときもありますか?

 

瀬川 ありますね。それはもう監督次第。

 

——— 最初の映像は、台本が届いたどれくらい後に上がってくるんですか?

 

瀬川 2〜3ヶ月後ですかね。ある程度編集はしてあるんですけど、まだグリーン・バックがあちこちにある状態で、CGも入っていない。でもそれで音楽が入る場所や全体のペースがようやく見えてくる。でも『銀魂』は、最近の映画の中ではかなり大変でしたね。CGの直しが多くて、単に作り直すというだけでなく、使う場所も変えちゃう。ロックした後に新しい画が送られてくるんです(笑)。本当は録音のときは東京に帰りたかったんですけど、そんな感じでギリギリまで作曲しててどうしても帰れなくて、仕方なくロサンゼルスと東京をリモートで繋いで録音しました。ファイナル・ダビングのときは何とか帰れたんですけど、そこでもまだ作業してましたから(笑)。本当に大変でした。だから最初からPro Toolsでやっていて、本当に良かったですね。他のDAWでやっていたら、トラックの修正をしたらもう一度WAVをエクスポートして、ProToolsのセッションを作り直さなければならなかった。そんなことをやっていたら、とてもじゃないですけどファイナル・ダビングに間に合いませんでしたね。今回は最初からPro Toolsでやっていたおかげで、やり直した箇所はコミットかプリントするだけでセッションの準備が済みましたから。多分、Pro Toolsで始めたのは、“きっと最後は大変になる”という職業作曲家の勘が働いたんでしょう(笑)。

映画「銀魂」

©空知英秋/集英社 ©2017 映画「銀魂」製作委員会

最初にビデオ・ファイルを読み込んだ“Super Session”を作成して作業を開始する

——— さて、ここからはPro Toolsの使いこなしについて伺いたいんですが、上がってきた映像はVideo SatelliteではなくPro Toolsのビデオ・トラックにインポートするんですか?

 

瀬川 そうです。送られてくる映像のファイル・フォーマットはいろいろなんですけど、『銀魂』に関して言えばQuickTimeでしたね。せっかくなのでTIPS的な話をすると、最初に映像をビデオ・トラックに読み込み、タイムコードと照らし合わせながら、マーカーを書き込んだセッションを作るんです。そのセッションのことを、西海岸の人たちは“Super Session”と呼んでいるんですよ。“Super Session”は、作品のリールに合わせてリール1、リール2とリールの数だけ作る。そして曲を作る際は、作曲用のセッションに、“Super Session”からビデオ・トラックだけをセッション・インポートで読み込むんです。

 

——— 作曲用セッションのビデオ・トラックに直接ビデオ・ファイルをインポートするのではなく、“Super Session”のビデオ・トラックをセッション・インポートで読み込むと……。

 

瀬川 そう。なぜそんなことをするかと言えば、さっきも言ったとおり1作品で50曲くらい曲を作るわけですよ。その各セッションにビデオ・ファイルをインポートしていたら、いちいち変換の時間がかかってしまうでしょう。最初に“Super Session”を作ってしまえば、その時点でムービーの変換は終了しているわけですから、あとはビデオ・トラックをセッション・インポートで持ってくればいい。これは劇伴作曲家にとってはすごいメリットで、欧米の作曲家がPro Toolsを使っている大きな理由の一つだと思います。

 

——— “Super Session”であらかじめタイムコードを合わせて、マーカーを打っておけば、後の作業がすごくラクになりますね。

 

瀬川 そのとおりです。セッション・インポートでは映像だけでなく、マーカーごとインポートすればいいわけですからね。マーカーに関しては、最初に2時間分のラッシュを見た段階で、自分なりにバーッと打ってしまうんです。最初に貰うラッシュにはSEが入ってなかったりするんですけど、ここにはどう考えても爆発音が入るんだろうなというのはわかりますから。

 

——— マーカーはどんな感じで打つんですか?

 

瀬川 ポップスの作曲家さんは、“Aメロ”とか“サビ”とかだと思うんですけど、ぼくの場合は“Boon!”とかそういう擬音だったりします(笑)。自分でシーンのイメージがわかればいいわけですから。

あとPro Toolsが劇伴作曲に向いているなと感じるのは、マイナス小節が作れる点ですね。Pro Toolsは当初からオーディオ・ベース、タイムコード・ベースのソフトウェアで、他のDAWはMIDIシーケンサー上がりのテンポ・ベースのソフトウェアじゃないですか。だからマイナス小節という概念が無いものがほとんど。監督や選曲さんから”やっぱりこのシーンは10秒前から音楽をスタートさせて”ということがよくありますからね。そんなときもPro Toolsだったら1小節目よりも前にMIDIデータを置けるのですぐに対応できる。試写を観て、”やっぱり元のスポットがいいかな”と戻す場合も即対応できますからね。もちろん最終的にはマイナス小節の部分はプラス・ナンバーの小節に置き換えますが、Pro Toolsならそれも簡単にできます。それと2つのマーカー間を4小節にするといったテンポの計算もPro Toolsはものすごく簡単なんです。

 

——— ご自宅の作曲システムについておしえていただけますか。

 

瀬川 Mac Proが今は6台あります。1台がシーケンス用、1台がレコーディング/ミックス用、残りの4台が音源用という使い分けですね。シーケンス用とレコーディング/ミックス用のPro ToolsはHDXシステムで、音源用マシンではVienna Ensemble Proにソフト音源を立ち上げ、RME HDSPe MADIからPro ToolsのHD MADIに出力しています。でも最近は音源用マシンを4台すべて使うことは少なくて、『銀魂』でも確か2台しか使いませんでした。レコーディング/ミックス用のPro Toolsでは、Universal Audio UAD-2 OCTOも使っています。

SONY DSC

ロサンゼルスの自宅の作曲システム。6台のMac Pro/Pro Toolsシステムを併用している

——— シーケンス用のPro Toolsで音源マシンをMIDIシーケンスさせて、その音をレコーディング/ミックス用のPro Toolsに録るという感じですか?

 

瀬川 そう。でも画面を見てエディットしなければならないような音源は、シーケンス用のPro Toolsに立ち上げて使っています。例えばハープのペダルとか、スケールによって設定を変えなければならないので、そういう音源はシーケンス用Pro Toolsで起動させることが多いですね。音源用マシンで扱うのは、画面を見なくてもいいような定番のオーケストラ音源とか。作曲用のセッション・テンプレートがあるんですけど、それに定番の音源をアサインしたMIDIトラックが250くらい並んでいて、まずはそこから曲作りを始めるんです。ストリングスのアーティキュレーションとかもすべて最初からロード用意してある。

シーケンス用Pro Toolsの画面と、レコーディング/ミックス用Pro Toolsの画面

シーケンス用Pro Toolsの画面と、レコーディング/ミックス用Pro Toolsの画面を2つのディスプレイに表示

シーケンス用Pro Toolsの編集ウィンドウ

シーケンス用Pro Toolsの編集ウィンドウ。よく使う音源がアサインされた約250本のMIDIトラックを含むセッション・テンプレートから作業はスタートするとのこと

——— シーケンス用のPro Toolsとレコーディング/ミックス用のPro Toolsは、どのように同期させていますか?

 

瀬川 もちろん、Satellite Linkで。そして曲が出来上がったら、レコーディング/ミックス用のPro Toolsにパラで録音するという流れです。なぜこのようなシステムにしているかと言えば、出来た曲をバウンスするのではなく、別のPro Toolsに録音したいからなんですよ。これは西海岸では当たり前のやり方で、みんな“プリント”と呼んでいる作業なんですけど。バウンスが嫌なのは、本当にエラー無く録音されているか、頭から最後まで聴き直さなければわからないところ。しかしプリントだったら、ダビングと同じことなので、聴いて問題なければそれでオーケーなんです。こういうこと言うと、“最近はバウンスでのエラーなんてないよ”と言う人がいますけど、万が一ということがありますから。スタジオに入ってからエラーに気づいたら大変ですからね。あと、ぼくは自宅のシステムのマスター・クロックとしてAntelopeのIsochrone 10Mを使っているんですけど、どんなDAWでもバウンス中の演算してる間はクロックから外れますよね。そうするとクロック精度の良さが生きないというのもプリントしている理由です。

 

——— 最近のお気に入りのソフト音源をおしえてください。

 

瀬川 Spitfire Audioの一連のライブラリーは好きですね。あとはOrchestra Toolsのライブラリーもよく使っています。でも市販のものを使うだけでなく、自分でサンプリングしてライブラリーを作ったりもしていますよ。この前も東京の知り合いにオカリナを吹いてもらって、それをReaperで加工してKontaktのライブラリーにしたりとか。自分のライブラリーは常にアップデートしていってますね。

Vienna Ensemble Pro

ソフト音源は、4台の音源用Mac ProでVienna Ensemble Proに立ち上げられる

——— 瀬川さんは、アナログ・シンセイザーも多用されますよね。

 

瀬川 いまだにProphet-5はよく使いますし、Eurorackのモジュラー・シンセもたくさん使ってます。モジュラー・シンセではサウンド・デザイン的なことをしていますね。

瀬川氏愛用のモジュラー・シンセサイザー

瀬川氏愛用のモジュラー・シンセサイザー。自宅にはモジュールが大量にあるとのこと

——— 最近はギターはどのように録音していますか?

 

瀬川 最近のお気に入りはBias PositiveGridで、まずはあれのプラグイン版を使って音を作り、音色が決まったらハードウェア版を使ってHD I/Oにアナログで録音しています。ギターのサウンド・シミュレーターはプラグイン/ハードウェア含め、ほとんど試したと思いますけど、メタルくらい歪ませるとどれも大して変わらないんですよ(笑)。でも如実に違いが出るのが、軽くクランチ系で歪ませたとき。PositiveGridは、クリーンとクランチの中間くらいの微妙な歪みがすごく良いんですよね。『スーパーサラリーマン左江内氏』でも何曲かジャズ・ギターのソロを弾いたんですけど、あれも全部PositiveGridですね。PositiveGridは、レーテンシーが少ないのものいいんです。

 

——— ギターはどのようなものを?

 

瀬川 いろいろ使っているんですけど、『銀魂』ではあの映画のためにIbanezに特注した8弦ギターを使いました。前からIbanezの7弦ギターは使っていたんですけど、あの作品ではもっと低い超低音が欲しいなと思って。8弦ギターと言うと、かなり奇抜な感じがしますけど、アメリカではけっこう使っている人がいるんですよ。最近のプログレ・バンドの人とか。

『銀魂』のレコーディング用に特注されたIbanezの8弦ギター

『銀魂』のレコーディング用に特注されたIbanezの8弦ギター

——— チューニングはどうなっているんですか?

 

瀬川 下2本がF#とBです。そのくらい低いともう音程感はほとんど無いんですが、爆音で鳴らすとすごく良いんです(笑)。

 

——— 最後に、長年Pro Toolsを使い続けている理由について、あらためておしえていただけますか。

 

瀬川 やはりぼくのような職業作曲家には、HDXシステムのようなDSPベースのDAWが不可欠です。音源用マシンを別のMacにしたとしても、ホストMacのCPUパワーというのは常に気になりますから。その点、HDXシステムはボイス数が確保されているので、処理能力のことを気にする必要がない。作業する上での不安がないんです。先日も日本で編集しなければならないことああって、最新のMacBook ProとネイティブのPro Toolsで作業したんですけど、途中で重くなってきたのでメモリを解放したりして何とか凌ぎました。いくらコンピューターが速くなったとしても、プロの作曲家にはPro Tools | HDXシステムは不可欠だと思います。

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