Pro Tools 12.6新機能詳解
Pro Tools 12.6ソフトウエアには、ワークフローを効率化し、生産性を向上させる、パワフルな編集/ミックスに関する幾つかの新機能が加わっています。
以下の「Pro Tools 12.6新機能説明」ビデオでは、Pro Tools 12.6で追加された新機能の概要を紹介しています。
ここでは、上記ビデオで説明されている各機能のさらに詳しい内容並びにビデオでは触れていない幾つかの追加/改良点についても解説致します。
クリップ・ベースのリアルタイム・エフェクト機能
Pro Tools HD 12.6ソフトウエアには、単体または複数クリップを同時に選択して実行可能なクリップ・エフェクト機能が加わりました。
この機能は、ロケ現場の異なる収録音声の整音、ナレーション/ダイアログ編集、ボーカル・コンピングといった作業時に、各テイクのニュアンスを揃える為のEQ/ダイナミクス処理を行う際に便利です。
クリップ・エフェクト・ウインドウは、編集ウインドウ上部に表示され、クリップ・エフェクト・アイコンをクリック、またはショートカットのoption-6(テンキー)で素早く呼び出すことができます。
クリップ・エフェクトは、セレクターやオブジェクト・グラバーを利用して複数のクリップを選択し、それらを同時にリアルタイム処理することができます。また、クリップ・エフェクトを実行した場合、そのクリップ上には、処理を行なった各エフェクトのアイコンが表示されます。
クリップ・エフェクト機能には、インプット(トリム及び位相反転)、フィルター、EQ、ダイナミクスの各モジュールが含まれ、それぞれのモジュールの順番を入れ替えたり、表示/非表示を行なったりすることもできます。
クリップ・エフェクトは、Avid Channel Stripプラグインをベースに開発されており、作成したプリセットも共有して利用可能となっています。
また、ショートカット・プリセットを最大5つまで登録し、キーボード上から素早く呼び出すことも可能です。
クリップ・エフェクトを実行したクリップを、ループ/デュプリケイト/コピー&ペーストしても、設定したパラメーター値は維持されます。また、クリップ・エフェクト・データだけをコピーし、別のクリップにペーストすることも可能です。
クリップ毎に異なったプロセッシングを、非破壊/リアルタイムでレーテンシーなく処理可能なクリップ・エフェクトを実行した際の、その他の処理も含めた「シグナル・チェーン」は下記の順番となります。
クリップ・エフェクトは、リアルタイムで実行されますが、必要に応じてレンダーすることもできます。その際、クリップ・エフェクトより前段で実行されているエラスティック・オーディオのデータがある場合は、それらも含めてレンダー処理されます(クリップ・エフェクトより後段のプロセスには影響はありません)。
クリップ・エフェクト機能は、Pro Tools HDソフトウエアのみで実行可能ですが、Pro Toolsスタンダード・ソフトウエアも、そのデータを再生/バイパス/レンダーすることも可能となっており、システム間のセッション相互運用性は維持されます(要v12.6以上)。
レイヤー編集モード
レイヤー編集モードでは、クリップが重なって表示された場合に、これまでのPro Toolsとは異なり、下層クリップのデータを維持しながら編集を実行する為のオプション機能です。
「レイヤー編集」モードに入るには、ツール・バーに新しく追加されたレイヤー編集オプションをオンにします。
「レイヤー編集」モードをオンにすると、新たにクリップを重ねた後に、移動やトリムを行なっても、下層レイヤーにあるクリップが、本来持っていたそれぞれの境界線を維持したまま編集作業を継続することができます。
上図のような複数クリップにまたがる形で置かれているクリップがあるケースで、そのクリップを移動/カット/トリムすると、下層レイヤーのクリップの状態がどのようになるかを見ていきましょう。
該当クリップをグラバー・ツールを使って移動する場合、下図のように下層クリップの境界線は、元のまま維持されます。
グラバー・ツールでクリップを選択しカットした場合も同様に、下層クリップの境界線が元のまま現れます。
トリムした場合も、下層クリップの該当箇所が、元の状態で表示されます。
レイヤー編集モード時には、クリップ上に別のクリップが重なった際、そのクリップを移動/トリムすると、下層クリップのデータも透過表示可能となり、編集時に適切な場所へ移動/トリミングすることが、より簡単になりました。
レイヤー編集モード時には、ひとつのクリップ上に別のクリップが置かれている場合、完全に覆い被さった状態でない限り、上部のクリップを削除すると下層クリップがそのまま表示されますが、「Command(Mac)/Ctrl(Win)+Delete」で削除を実行すると、レイヤー編集モード・オフの時と同じように下層レイヤー・クリップの該当範囲まで含めて削除することが可能となります。
レイヤー編集モードがオプションとして加わることで、Pro Toolsの編集時対応能力に一層の柔軟性が加わりました。
この機能を自在に使いこなすことで、これまで多くの手順を必要としていた複雑な編集作業を、より素早く実行できるようになります。
プレイリスト機能の強化
トラック・コンピングに便利なプレイリスト機能が大幅に強化されました。
プレイリスト・インジケーターの改良
トラック上にプレイリストが複数存在している場合、トラック・ネーム右のプレイリスト・ドロップ・メニュー部が「青」で表示されるようになりました。
プレイリスト切換ショートカット
トラックをプレイリスト・ビューへと展開表示しなくても、シフト・キーと上下の矢印キーをタイプすることで、各プレイリストを切換表示することが可能です。
これにより通常のトラック表示状態でも、プレイリストを切り換え、コピー/ペースト機能で必要な部分を、別のプレイストに貼り付けるといった編集/コンピング作業が実行可能となりました。
選択範囲内のデータを別のプレイリストへ移動
トラック上の範囲を選択し右クリックすることで表示されるメニュー上から、その選択範囲上にあるクリップを、新規または既存のプレイリストへ移動させたり、コピーしたりすることができるようになりました。
新規プレイリストへ移動させたい場合は、ショートカット・キー(シフト-オプション-N)を使用することもできます。
クリップがオーバーラップした際の「消去」回避オプション
初期設定に、編集または録音時にクリップが完全に重複した際に、下層クリップがタイムライン上から「消去」されることを回避する為の2つのオプション(「編集で完全重複されたクリップを別プレイリストに移動」と「録音で完全重複されたクリップを別プレイリストに移動」)が加わりました。
初期設定上で、これらのモードをオンにすると、編集または(及び)録音時にクリップがオーバーラップした場合に、下層クリップが自動的に新規またはスペースの存在する既存プレイリストに送られ、タイムライン上に保全されるようになります。
その際「表示メニュー」上の「クリップ」コマンドから「コピー/移動の表示」をオンにしておくと、重なったクリップが別のプレイリストに送られるのを、視覚的に確認することができるようになります。
また、「コピー/移動の表示」をオンにしておくと、プレイリスト展開時に、重なったクリップが、どのプレイリストに送られるかを、リアルタイムに視認することもできるようになります。
「完全重複されたクリップを別プレイリストに移動」チェック時には、複数のクリップにまたがってオーバーラップするように録音/編集された場合でも、常にそのオーバーラップされたクリップがまとまった形で、有効な別プレイリストに送られるようになります。
クリップ・オーバーラップ時のビジュアル・フィードバック
「表示メニュー」上の「クリップ」コマンドから「オーバーラップ」をオンにすると、クリップが重なっている事がわかるよう上部のクリップの端に「影」が表示されるようになります。
「表示メニュー」上の「クリップ」コマンドから「Overwrite Indicator」をオンにすると、タイムライン上の外側にあるクリップが、編集時にオーバーラップした際に「警告」表示が現れるようになります。
これにより、ワークスペースからサンプル・ライブラリーをトラック上に取り込む際、誤って既存のクリップをオーバーライトし、タイムラインから消去してしまうといったアクシデントを未然に防ぐことができます。
初期設定で「完全重複されたクリップを別プレイリストに移動」をオンにしておくと、青色の警告表示が現れ、そのまま作業する場合でも、下層クリップが有効な別のプレイストに送られ保全される事がわかるようになっています。
初期設定で「編集時に重複クリップを別のプレイリストに送る」をオフにすると、赤色の警告表示が現れ、そのまま作業を継続すると、下層クリップはオーバーラップされタイムライン上から消去されます。消去されるのを回避したい場合は、その編集/取り込みを中止するか、別のトラックに移動して作業を継続します。
上記のように、プレイリスト機能強化も非常に多岐に渡っており、より柔軟な編集/コンピング作業が素早く実行可能となっています。
編集機能の強化
Pro Tools 12.6には、レイヤー編集モード以外にも、以下の編集機能追加/改良が行なわれています。
双方向トリム
「オプション」メニューに、「双方向(Tandem)トリム」モードが加わりました。
このモードをオンにしておくと、2つのクリップが接している際に、その境界線にマウスを持っていくと、「双方向トリム・アイコン」が表示され、矢印で示されている側のクリップをトリムすると、もう片方のクリップも、データが存在する範囲内で、対象クリップに吸着する形で双方向にトリム処理することが可能となります。
スリップ/グリッド時のクラッチ機能
スリップ・モード時に、コマンド・キーを押しながら作業を行うと、一時的にグリッド・モードでの編集が可能となります。また、逆にグリッド・モード時に、コマンド・キーを押しながら作業を行うと、スリップ・モードでの編集を行えるようになります。
フェード・カーブ・ダイレクト編集
スマート・ツールで作業時、これまでのフェードを追加/トリムする機能に加え、フェード・カーブ自体を、フェード・ウインドウを開くこと無しに直接編集することが可能となりました。
また、右クリックで表示されるフェード・メニューからシェイプ及びスロープ・タイプを選択することもできます。
フェード編集時には、波形データもリアルタイムにアップデイトされますので、どのようなサウンドになるか、視覚的に把握することも可能です。
ツール・バー上のビジュアル・フィードバック強化
Pro Tools 12.6では、セッション管理やワークフロー改善の為、ツール・バー上のビジュアル・フィードバック機能も強化しています。
オフライン・ファイルの存在を示すセッション・オンライン・ステイタス・インジケーターの赤色表示部分をクリックすると、「再リンク・ウインドウ」が開き、必要なクリップのリンクの回復が迅速に行なえるようになりました。
また、タスク・マネージャー・ステイタス・インジケーターも追加され、ファイル処理時やクラウド・コラボレーション時のデータ送信の状況を常時確認できるようになり、またそこをクリックする事で素早くタスク・マネージャー・ウインドウを開くことも可能です。
グローバル・フリーズ・トラック・インジケーターでは、全てのトラックを同時にフリーズ実行/解除すること以外に、AUXトラックやバーチャル・インストゥルメント・トラックのみを選択し、それらのトラックを1アクションでフリーズさせ、CPUパワーの節約を行なうことが可能となっています。
ご覧いただきましたように、Pro Tools 12.6では、ポストプロダクションやミュージック制作での、多岐に渡ったワークフロー/用途/方法で活用する為の追加機能/改善が数多く施されています。
より柔軟に、そしてより強力になったPro Tools 12.6で、皆様のクリエイティブ・ワークをより一層充実したものなさってください。
また、Pro Tools 12.6に関連した製品情報は下記にも記載されていますので、こちらも併せてご覧ください。
関連情報リンク
■Pro Tools 12.6インフォ&ダウンロード(互換情報等が記載されています)
■Pro Tools 12.6リリースノート(追加機能並びに課題修正リスト/情報等が記載されています)