グラミー賞受賞者 ダレル・ソープのイマーシブミュージック・ミキシングに関する3つのポイント

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9回のグラミー賞受賞®︎経歴を持つレコーディングエンジニア、ミキサー兼プロデューサーが、イマーシブ(没入型)ミュージックが可能な全ての音響空間にアクセスできるようになりました。

 

ダレル・ソープはポール・マッカートニー、レディオヘッド、ベックなどの有名なミュージシャンとコラボレーションしてきました。2017年、彼はフー・ファイターズのアルバム『コンクリート・アンド・ゴールド』のエンジニアとミックスを行いました。彼のキャリアにおいて、この受賞歴までは、ステレオでのエンジニアをメインとしていましたが、このプロジェクトでは、イマーシブフォーマットであるDolby Atmos® でトラックをリミックスする機会を得ました。フー・ファイターズのバンドリーダー、デイブ・グロールは、Dolby Vision™で制作された2枚目のシングル『ザ・スカイ・イズ・ア・ネイバーフッド』のビデオを作りたいと思っており、Dolbyからその曲の音源のリミックスをAtomos でしてみないかとの提案がDolbyからありました。

Dolby Atmosは、最大128チャンネルを使用して、オーディオフィールドを3D空間に変えます。まるでリアルな日常生活の中にいるような、イマーシブサウンド体験が得られます。2つのステレオチャンネルに全てを振り分けて、コンプレッションやE Qで仮想音響空間を作り上げる必要はありません。イマーシブミュージック・ミックスでは、どこにでも、いつでも、音源を配置させてパンができ、どの方向にも動かすことができるので、さらにダイナミックな体験と無制限のクリエイティブなオプションが選べます。

 

ソープは、ステレオバージョンの『ザ・スカイ・イズ・ア・ネイバーフッド』をイマーシブでリミックスするチャンスに飛び付きました。オーシャン・ウェイ・レコーディングでサラウンド・ミックスをしたので、イマーシブミュージックは興味をそそる次のステップのようでした。

 

「そのプロジェクトを引き受けたのは、とても面白そうだったからです。オーシャン・ウェイで最後にスタッフとして働いた時、かなりの経験ができました。」とソープは言います。「ソニー・オックスフォード・コンソールで9.1にもなる専用の5.1セットアップを使いました。ジャズのレコーディングでは、ハイファイ(hi-fi)を使用する人が多く、サラウンド・サウンドでミックスをしています。インディーズのフィルムでも同様です。バーバンクのDolby オフィスに行く機会があった時、ステージ上でミックスをして、『すごい!!』と感動しました。Atmosについてもっと知りたいと思いました。」

サラウンド・サウンド以上のもの

ソープは、部屋に入るやいなや、イマーシブオーディオに対するイメージをリセットしなければなりませんでした。

 

「Dolby Atmosは、サラウンド・サウンドがただ進化したものだと思っていました。でもそれは浅はかな考えでした。」とソープは言います。『ザ・スカイ・イズ・ア・ネイバーフッド』をイマーシブでリミックスし始めたとき、可能性がもっとあることは明瞭でした。

イマーシブミキシングすると、サウンドスケープにサウンドを配置する際に、よりフレキシブルに、正確に行うことができます。128チャンネルが使えるため、フロント左、フロント右、センター、左、右、リア左、リア右のチャンネル(7)と、ローフリーケンシー・エフェクトのチャンネル(.1、LFE)と、ゲームチェンジャーとなるハイチャンネル(.2)からなる7.1.2ベッドと、その他最大118オブジェクトを配置できます。これは、ステレオでもサラウンド・サウンドでもできない、3Dオーディオ・イメージを作り出すことができます。特定のスピーカーに結び付けられていない個々のチャンネルとオブジェクトに秘密があります。モノでもステレオでも、真のイマーシブ体験を得るために、3D空間のどんな場所にでも配置し、動かすことができます。

 

「Dolbyのエンジニア責任者であるセリ・トマスが来て、『やぁ、君がやってることもなかなかいいけど、こんなこともできるの、知ってるかい?』と、彼はAtmosがどんな個性を持っているか、どこをさらに明確にできるかを、もっと試してみるように促しました。」とソープは言います。「例えば、『この音をあのスピーカーから出したい』と思えば、それを簡単に実行できるのは素晴らしいです。そこからさらにのめり込み始めました。」

 

フー・ファイターズのシングルで、ソープは初めてイマーシブオーディオを体験しました。でもこれが最後ではありません。「もっとたくさんやってみたい。」と彼は言います。「イマーシブオーディオのプロジェクトを予定しています。一年前に録音したもので、大きなプロジェクトです。私が録音したものを、他のエンジニアが再録音するくらいなら、なぜ自分でやらない?ステレオで試してみます。」

スタジオにて(ダレル・ソープ)

ステレオバスを捨ててみる

イマーシブへのソープの関心の一つとして、お気に入りのおもちゃをいくつか手放さなければなりませんでした。「フー・ファイターズのミキシングをし始めた時、まず、セリに『ステレオ・バス・コンプレッションに何が使えますか』とたずねました。」

 

「私のミキシングスタイルの大きな部分を占めるもので、正直なところ、多くのエンジニアのミキシングスタイルでも同様です。」と彼は言います。「ミックスの形がある程度見え始めたポイントやプロセスに達すると、ミックス・バス・チェーンを追加し始めます。コンプレッションや、EQを少し、場合によってはある種のテープエミュレーションです。」

 

ソープが説明するように、Atmosのチャンネルとオブジェクトは、通常のステレオミキシングの過程とは異なったアプローチを可能にします。「ステレオバスを捨てて、いつもの作業過程を忘れることを、恐れないでください。イマーシブオーディオで作業しているときは、もうそのように考える必要はありません。」と彼は言います。「ミキシングを始めたら、まず音量バランスとパンを調整します。曲をよく知っていたので、初めからトラックとミックスをしました。いくつかのオートメーション・ライドがあちらこちらにありましたが、コンプレッションやテープ・エミュレーションをする必要がないとすぐにわかりました。ステレオで作業している時の速さとは同じではありません。パラレル・コンプレッションのコア・ミックスや、ボーカルやバッキングボーカル上のコンプレッションとEQに、十分に注意を払いました。ストリングスなどは、ほとんど同じようにしました。イマーシブ体験でのパンについてだけは、いつもと違うやり方でした。」

 

ステレオバスでの処理はオリジナルミックス上での大部分のサウンドを占めていましたが、イマーシブミックスの新しい拡張機能が登場したため、変えることは問題に思いませんでした。「デイブが本当に気づいたかどうかはわかりません。」とソープは言います。「一つだけ彼が言ったのは、『なんてことだ、信じられないくらいいい音だ!』ということでした。それから、彼のギターソロをとても大きくしたことに感謝されました。正面に持ってきて、ただ音量を上げるだけでなく、このギターアンプがあなたの頭に落ちてくるような音の配置にしたので、さらに非日常的な感覚に陥ります。」

 

没入型マインドセットに移行する

イマーシブでミキシングをするのはテクノロジーとワークフローの移行も必要ですが、考え方も変えなければなりません。

 

「私にとってステレオは、使用できる音響空間が非常に小さいです。」とソープは説明します。「この狭い帯域幅(バンド幅)に大量の情報を無理やりつめているので、とてもアグレッシブに感じるように曲を作るのはわりと簡単です。しかし、イマーシブオーディオでは、全く異なります。そこのギターの一部を削って、ここにあるキーボードと被らないようにする、といったことは、Dolby Atmosのようなイマーシブでミキシングするときにはする必要がありません。どのように広げて、どれだけ大きくできるか、ということが全てです。本当に素晴らしいです。」

 

全く新しい方法で音をどこに配置するか再構成する必要がありました。「Atmosでは、中心からだけではなく、高低、範囲全体にわたってパンすることができます。」とソープは言います。ストリングスを上部にパンし、バックボーカルを下部にパンし、リードボーカルをフー・ファイターズのミックスの垂直軸の中央に配置させ、前後の動きをつけるため、プリディレイ・タイムを増やして、複数のリバーブを使いました。

イマーシブミュージックはTIDAL HiFiやAmazon Music Unlimitedのようなストリーミングサービスですでに聴くことができます。独立したレーベルやアーティスト、エンジニアも、Dolby Atmos ミュージックを自分で配信できるようになりました。イマーシブミックスを作成するソフトウェアが手頃な値段で手に入るおかげで、多くの曲が最先端のフォーマットでミックスされており、オーディオ・プロフェッショナルの人達に素晴らしい機会を提供しています。

 

ソープが言うように、「イマーシブミュージックはとても楽しいものです。習得する価値がありますし、正直なところ、それほど難しいものではありません。」

 

Dolby Atmosでミックスする

Pro Tools | Ultimateは、業界で最も効率的なDolby Atmos® ミキシング・ワークフローを提供しています。 Atmos 7.1.2 オーディオシステム、ネイティブ・オブジェクト・パンニング、最新のオートメーション、ADM BWAV サポート、そして Avid サーフェイス・コントロール統合をサポートします。

MUSIC THAT MOVES

Dolby Atmosが伝える変革するサウンド・クリエイションの世界。Pro Toolsが伝える変革するサウンドプロダクションとミキシング方法。イマーシブ・ミキシングのための最も強力で拡張可能なエンド・ツー・エンドのツールセットを、ぜひ体験してみてください。

A musician and graphic designer, James freelances from his home studio on a range of audio and creative projects.