現場で映像が撮影されて、劇場のプロジェクターから映し出されるまでの間に、デジタル・データと重要なメタデータはすべて、多種多様なツール、プロセス、ユーザーの手を経由します。
制作からポスト・プロダクションまで、多くの場合、データ保全はプロジェクトの映像編集アシスタントの責務です。ストレージの最適な運用と組織的慣習の実践によって、メディアを保護し、最終作品を守ることができます。
ここでは、現場で活躍する編集アシスタントからの助言やコツを紹介します。
「なぜ多くの時間をかけるのか?とにかく編集にとりかかろう!」
時間も根気も無い時、メディアを整理する作業は、クリエイティブなプロセスを妨げているように思われるかもしれません。しかし、メディアの管理や整理に費やす時間は、後々、時間や頭痛の種を大幅に減らすことができます。『エージェント・オブ・シールド』 および 『クルーエル・サマー』 の編集アシスタントのアナ・ティレベロ(Anna Terebelo)氏は、次のように話します。
「撮影現場では、多大な時間とお金をかけてイメージを作り上げます。しかし、そのメディアが見過ごされて、コンピューターやエディターの前に届けられなければ、プロジェクトは文字通り、完成しません」 とティレベロ氏は話します。時間をかけることは、重要なだけではなく、不可欠なのです。
ティレベロ氏とアイリーン・チャン(Irene Chun)氏(『ミナリ』、『殺人を無罪にする方法』 で編集アシスタントを担当)は、時間をかけるべきところについて同じ意見です。「管理システムを設定や調整する際は、エディターやチームに話して、納得いくかどうかを確認します。番組はすべて異なるため、整理する方法も微妙に違うのですが、誰にとっても明確になるよう常にこころがけています」と、チャン氏は話します。
管理システムは、既存のチームに加わったばかりですぐにコツを学ばなくてはならない人も含め、誰もが簡単に操作できるものでなくてはなりません。新しいチームは、最初から管理的な決定を一緒に行うことで、全員が認識を同じくすることができます。
編集以外の整理
多くの作品において、制作とポスト・プロダクション間のメディアの受け渡しは、撮影現場のDITとポスト・プロダクションのビデオ編集アシスタントの間で行われます。制作にDITがいる場合、整理の第一段階は、メディアを受け取る前に完了しているかもしれません。しかし、撮影現場でメディアがどのように扱われるかを理解することは、メディアがポスト・プロダクションに送られた後の次のステップを決めるために役立ちます。制作およびポストチームがプリプロ段階で相談して、誰にも最善のストレージを見つけることが理想的です。
通常、入ってくるメディアにはさまざまなタイプの資料が付属しています。
「エディターのためにメディアを素早く準備することも重要ですが、ミスがないように時間をかけてしっかりと行うことが大切です。
これは、撮影現場から受け取るスクリプターの記録、カメラレポート、音響レポートなどの資料とメディアを比べるということです。見落としがないかどうかの確認は非常に重要です。もし見落としがあれば、チームやプロダクションに早急に報告しなければなりません。」 と、ティレベロ氏は言います。
先に進む前に、必ず制作資料やメディアに矛盾がないことを確認してください。制作の記憶が新しいうちが、欠けている部分を探し出す最大のチャンスです。
次に、カメラから編集システムやハードドライブへメディアを直接整理することを担当する場合、確実な方法が幾つかあります。
- ファイル構成を維持
カメラカードの構成全体をハードドライブにコピーし、カードごとにカメラレポートと一致するラベルを付けたフォルダーを作成します。これは、メディアを照合して、現場で撮影されたものがすべて編集に含まれていることを確認する最善の方法の1つです。ファイル構成全体を維持することで、一部の編集システムが特定の種類のメディアを取り込む場合に使用するメタデータを保護することができます。 - 撮影データでグループ分け
メディアを、撮影の日付や撮影場所が一致するフォルダーに整理することも可能です。コマーシャル、ドキュメンタリー、その他のノンフィクションの作品でよく使われる方法です。 - シーン別に整理
物語作品では、シーンごとに整理することで、スクリプターの記録と照合することができます。また、次の段階の編集管理もスムーズに行えます。
分かりやすいファイル名に変更するなら、今がその時です。編集ツールにメディアを取り込む際に、編集ビン内のクリップとドライブ上の物理的なファイルとの間に明確な関連性を保つことで、問題を未然に防ぎ、後のトラブルシューティングに役立てることができます。最低限の情報しか含まないファイル名が作られたり、撮影中に複製されたりすることが多いプロ用でないカメラを使用する場合、この方法を取ることが多いでしょう。
編集内の整理
メディアがハードディスクに整理されたら、次のステップは、編集ツールの中での整理です。このステップでは、ビンやフォルダーを作成して、編集中にいつでも必要なクリップをエディターが簡単に見つけられるようにします。この作業に時間を割くことで、後々の手間を大幅に省くことができます。
「また、誰が持ち込んだメディアでも、誰がエクスポートしたメディアでも、チームの誰もが割り込んで、何でも簡単に探せるような方法で [メディア] を整理したいと考えています」 とチェン氏は続けます。
この部分は、主にエディターのための準備です。エディターと協力しながら、個々のプロジェクトに適したビン構成を考えます。ノンフィクションとストーリー性のあるフィクション作品のニュアンスなど、類似の要素があるかもしれません。また、エディターは、Bロール、カットアウェイ、NGなどの要素を整理したいと思っているかもしれません。音楽、音響効果、ライブラリ、グラフィックスなどの要素についても準備する必要があるでしょう。
この段階で、ファイル名よりも記述的な名前を使用する必要がある場合、メタデータの扱いには注意が必要です。物理的なファイルへリンクするには、オリジナルのファイル名がそのまま残っていれば、検索の手間が省けます。例えば、“名前”列を変更する前に、“テープ名”または“ソース名”など、別々の列にオリジナルのファイル名をコピーするという方法があります。
編集の成功に向けて強固な基盤を構築
編集アシスタントが編集前に時間をかけて整理することは、効率的な編集を成功させるための基礎作りです。ドライブに物理的ファイルを整理したり、編集ビンにクリップを整理したりするなど、この段階での選択が、後々の緊急事態や制作時間のロスを防ぐことになります。
『転ばぬ先の杖』 という聞き慣れた諺にまとめられるでしょう。また、ティレベロ氏の言葉を借りれば、「ゆっくり、焦らず。チェックを怠らずに。ミスを未然に防ぐことが一番です」