Pro Tools | MTRX 導入事例:チンパンジースタジオ

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鹿児島の中心部からほど近い場所にあるチンパンジースタジオは、音楽作品のレコーディング/ミックス/マスタリングからMIDI/DJ機器を使用したプリプロ、さらには映像作品のMAにまで対応したプロダクション・スタジオです。アメリカ帰りのプロデューサー/エンジニア/ドラマーである大久保重樹氏が2007年に開設したスタジオであり、ブースとコントロール・ルームが一対というミニマムな構成ながら、音響設計を担当したのはソナで、都心の商用スタジオと比べても遜色のない設備を誇ります。オーナーの大久保氏はチンパンジースタジオのコンセプトについて、次のように語ります。

 

「1997年に日本に帰ってきてから、マンションの一室をスタジオにして作曲や録音の仕事を始めたのですが、思う存分ドラムを叩けない、しっかり録音できないというのがとてもストレスで……。それで、これはもうスタジオを造るしかないと思い、土地を購入して、建屋から自分のイメージどおりのスタジオを造ることにしたというわけです。とにかく “24時間リズム録音ができる” というのが一番重要だったので、ブースもコントロール・ルームも完全浮床構造にして。電気も電柱から直接引き込んで、200Vからのダウン・トランスを設置し、スタジオとしての基本となる部分は一切妥協はしていません。鹿児島という地方のスタジオではあるのですが、オープン以来多くのクライアントに利用いただいており、地元のバンドはもちろん、韓国のアーティストもたくさん手がけています。今はもう人が行き来しなくても、インターネットですべてのやり取りができてしまう時代ですから」(大久保氏)

チンパンジースタジオのコントロール・ルーム

24時間リズム録音が可能なブース

そんなチンパンジースタジオは昨年、4本のハイト・スピーカーを設置する大規模なリニューアル工事が行われ、Dolby Atmos®をはじめとするイマーシブ・ミックスへの対応を果たしました。少し前まではイマーシブ・オーディオにまったく関心がなかったという大久保氏ですが、クライアントからの問い合わせをきっかけに、一気にハマってしまったと語ります。

 

「ずっとステレオばかりで5.1chの仕事すら手がけたことがなく、イマーシブ・オーディオに関しては、“別にやらなくていいだろう”くらいの感覚でした。でも一昨年、とあるアーティストの方から、“Dolby Atmosのミックスはできないんですか?” という問い合わせがあったんです。それで作品もいろいろチェックして、“なるほど、こういうものなんだ” と、徐々に興味を持ち始めた感じですね。Dolby Atmosでミックスされた音楽は、これまでとはちょっと違う世界で、新しい楽しみ方が増えたというか、これからどんどんおもしろくなっていきそうな予感がして。これはスピーカーを増やして、真剣に取り組んでみてもいいのではないかなと。Apple Musicが空間オーディオに対応したのも大きかったですね」(大久保氏)

天井に設置された4本のスピーカー

作業の中心となるPro ToolsとDolby Atmos Renderer

新生チンパンジースタジオは、Genelec製スピーカーによる7.1.4chのモニター・システムが導入され、作業の中心となるPro Tools | HDXもカード2枚のシステムへと処理能力を増強。また、オーディオ・インターフェースもPro Tools | MTRXへとアップグレードされました。

 

「Dolby Atmosミックスでは多くのチャンネルを扱うことになるので、処理能力に余裕を持たせた方がいいだろうと、HDXカードを1枚追加しました。Pro Tools | MTRXはDAD MOMとの組み合わせでモニター・コントローラーとしても使用していて、SPQカードでディレイやEQといった調整も行なっています。Dolby Atmos Rendererに関しては、Pro Toolsと同じMacで使用しているのですが、新しいMac Proを導入したので、マシン・パワー的にもまったく問題ありません」(大久保氏)

リニューアル時に導入されたPro Tools | MTRX

2020年暮れのリニューアル工事完了後、既に多くの音楽作品のDolby Atmosミックスが行われたというチンパンジースタジオ。大久保氏は「ステレオでは難しかった表現ができるのがDolby Atmosミックスの一番のおもしろさ」と語ります。

 

「手探りの状態で始めたのですが、いろいろ情報が入ってきたこともあり、今はだいぶ慣れてきました。最初はロックのような音楽には向いてないのかな?とも思ったんですけど、何曲もやっているうちにそんなことはないと思えてきて。やっと心得てきたというか、自分なりのDolby Atmosミックスが見えてきた感じです。結局、無理にイマーシブにする必要はないというか、ステレオで既にある楽曲をあまりにもかけ離れた音像にするのは違うなと思っています。ただ、ステレオ・ミックスよりも没入感というか、もっと “そこにいる感じ” を作ることができる。ステレオ・ミックスですと音が詰まってしまって苦労した部分も、Dolby Atmosだとスコーっと抜けてくれますからね。それとぼくはこれまでヘッドフォンをあんまり使ってこなかったんですが、Dolby Atmosを始めてからバイノーラル・ミックスのチェックでヘッドフォンを使うようになりました。実際にヘッドフォンでチェックしてみると、自分がイメージしていた音像とはかけ離れてしまっていることもありますから。それにしてもDolby Atmosのミックスはおもしろい。Dolby Atmosの音楽を聴くのも楽しいですけど、作るのはもっと楽しいということを、このスタジオから多くの人たちに伝えていきたいと思っています」(大久保氏)

チンパンジースタジオの代表、大久保重樹氏

チンパンジースタジオ
(Chimpanzee Studio)

Dolby Atmosは、Dolby Laboratoriesの登録商標です。

Pro Tools | MTRX

新たなレベルの再現性と柔軟性を実現