Pro Tools | MTRXで実現した次世代イマーシブ・スタジオ、音響ハウス『Studio No.7』

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イマーシブ・コンテンツ制作に対応した新スタジオ『Studio No.7』

来年創立50周年を迎える日本を代表するスタジオ、株式会社音響ハウス(東京・銀座)。同社は今年3月、ONKIO BLDG. 7階の『MASTERING ROOM』の改修を実施し、空間オーディオ/イマーシブ・コンテンツ制作に対応した『Studio No.7』としてリニューアルしました。新生『Studio No.7』には、9.1.4chのモニター・システムが新たに設置され、Dolby Atmos🄬レンダラーのHT-RMUも常設。株式会社音響ハウス スタジオ事業部門 技術部マネージャー/レコーディング・エンジニアの櫻井繁郎氏によれば、近日中にロワー・スピーカーも追加され、360 Reality Audioにも対応するとのことです。

 

「イマーシブ・ミックスには以前から興味があったのですが、決定的だったのはApple Musicが空間オーディオに対応したことでした。エンド・ユーザーがヘッドフォンでも気軽に楽しめるようになるということで、これは我々も取り組まないといけないなと。弊社はサラウンドに対応したのも早く、新しいことには積極的に取り組んでいくという社風があるんです(笑)。イマーシブ対応のスタジオを開設するにあたって『MASTERING ROOM』に白羽の矢を立てたのは、この部屋が一番改修しやすかったからですね。他の部屋ですと大きなコンソールがあるので、大規模な改修になってしまう。その点、この部屋はマスタリング・スタジオということもあって機材が少なく、サラウンドにも対応していましたし、イマーシブ・スタジオを造るならこの部屋がベストだろうと思ったんです。なお、イマーシブに対応させた後も、マスタリング・スタジオとしての機能は維持しようと考えていたので、今回はルーム・アコースティックには手を付けていません。9.1.4chのモニター・システムを設置し、Pro Tools周りを入れ替えたリニューアルということになります」(櫻井氏)

株式会社音響ハウス スタジオ事業部門
技術部マネージャー/レコーディング・エンジニア 櫻井 繁郎 氏

イマーシブ・スタジオの肝であるモニター・システムはフィンランドAmphion製で、フロント・スピーカーはTwo18、サラウンド・スピーカーとハイト・スピーカーはOne18という構成。フロント・スピーカーにはサブ・ウーファー (LFE) のFlexBase25も導入され、Two18はAmp700、One18はAmp400.8でドライブされています。

 

「初期の段階では9.1.4chではなく、7.1.4chでいこうと考えていたんです。しかし既にイマーシブ・コンテンツ制作を実践されているエンジニアさんから、“スピーカーが9本あると表現力が違ってくる” という話を訊き、9.1.4chでいくことにしました。スピーカーに関してはいろいろなメーカーのものを試聴したのですが、最終的にAmphionでいこうということになりました。Amphionは日本に入ってきてすぐに導入し、Two18とOne18を移動用スピーカーとして使っていたのですが、凄く素直で作りやすい音なんです。エフェクトをかけたり、ボリューム操作の反応などもとても分かりやすい。ロックのような音楽には向かないと言う人もいますが、パワー的にはまったく問題ありませんし、ぼく的には使いようかなと思っています。とにかく音を作りやすい、ミックスしやすいスピーカーですね」(櫻井氏)

フロント・スピーカーはAmphion Two18

ハイト・スピーカーとサラウンド・スピーカーはAmphion One18

フロント・スピーカーとサラウンド・スピーカーは、音響ハウス謹製のスピーカー・スタンドに設置されていますが、設計を手がけた株式会社音響ハウス 管理部門 技術開発管理部長の須田淳也氏によれば、現在新しいスタンドを作り直しているとのこと。

 

「最初スタンドの高さは840mmだったのですが、その後にBaseTwo25を2台導入することになったので、高さを揃えるために現在958mmで作り直しているところです。素材は厳選したスチールとMDFの組み合わせで、長年の経験をもとに、締め過ぎず緩過ぎないポイントを狙っています。今回、フロント・スピーカーとサラウンド・スピーカーで異なるモデルが混在しているわけですが、Amphionはクロスオーバー・ポイントが揃っているのがいいですね。クロスオーバー・ポイントが違うスピーカーを混在させると、位相特性がおかしくなってしまいますから」(須田氏)

株式会社音響ハウス 管理部門
技術開発管理部長 須田 淳也 氏

作業の中心となるPro Toolsは、リニューアルに合わせて刷新。現行のMac Proに3枚のHDXカードとUniversal Audio UAD-2が装着され、コントロール・サーフェスとして Avid DockとAvid S1も導入されています。オーディオ・インターフェースはPro Tools | MTRXで、システム・インストレーションを担当した株式会社タックシステムの益子友成氏によれば、Pro Tools | MTRXにはタックシステム VMC-102 IP(DanteおよびMADI)とDolby Laboratories HT-RMU(Dante)も接続されているとのことです。

 

「Pro Tools | MTRXは、ADカードが1枚、DAカードが3枚、DigiLink I/Oカードが2枚、Danteカードという構成で、SPQスピーカー・プロセッシング・カードも装着してあります。VMC-102には、HT-RMUのリレンダラー機能を使用し、Dolby Atmos、7.1ch、5.1ch、ステレオ、バイノーラルの各ミックスが入っているのですが、これらを瞬時に切り替えてモニターすることが可能になっています」(益子氏)

 

「Pro Tools | MTRXの3枚のDAカードは、2枚がイマーシブ・ミックス用、1枚がステレオ・マスタリング用で、あえて分けることにしました。そうしないと、毎回I/Oセットアップを変える必要がありますし、事故も怖いですからね。基本、この部屋でレコーディングをすることはないのですが、ADカードが1枚あるので、ちょっとしたナレーション収録にも対応できるようになっています。VMC-102に関しては、弊社ではMA 1に続いて2台目の導入で、空間オーディオではヘッドフォンでの確認も重要になってきますが、VMC-102があればヘッドフォン・アンプにもすぐに切り替えることができます。また、Pro Toolsを入れ替えるのと同時に、プラグインもかなり充実させました。Waves Horizon、Plugin Alliance、Slate Digital、Universal Audio、Nugen Audio、Sound Particles、DSpatial、LiquidSonicsなど、Dolby Atmos対応のプラグインも大体揃っています」(櫻井氏)

作業デスク

デスク右手に配されたAvid Dock

デスク左手に配されたAvid S1

「新しいスタジオを構築するにあたって、熟成されたVMC-102の存在は非常に大きかったですね。単純なDolby Atmosスタジオではなく、ステレオ・マスタリングの環境を維持しなければならなかったので、VMC-102無しではこのようなハイブリッド環境は実現できなかったのではないかと思います。音も悪くないですし、モニター・コントローラーとしての使い勝手も良く、アナログ的なフィーリングを持っている。VMC-102とPro Tools |  MTRXの組み合わせが、このスタジオを下支えしてくれていると思っています。それとPro Tools | MTRXのSPQスピーカー・プロセッシング・カードの存在も大きいですね。弊社には、余計なプロセッサーは極力挟まないというのがポリシーとしてあるのですが、ハイト・スピーカーは一度設置してしまったら、位置を変えたりといった調整ができません。それをSPQスピーカー・プロセッシング・カードを使ってカバーしているというわけです。ソナの中原さん(注:株式会社ソナの中原雅考氏)と相談しながら、出っぱっているディップを補正し、納得のいく水準まで持っていくことができました」(須田氏)

スタジオの中核となるPro Tools | MTRX

モニター・コントローラーのタックシステム VMC-102 IP

音響ハウスでは初めての導入になるというPro Tools | MTRX。株式会社音響ハウス スタジオ事業部門 技術部統括部長/レコーディング・エンジニアの太田友基氏は、そのサウンドについて「スピード感のある音」と評価しています。

 

「前のPro Tools | HD I/Oと並べて聴き比べたわけではないのですが、音が速いというか、スピード感のある音がしますね。私はナレーションとか人の声を録ることが多いのですが、モタモタしていない音というか。いろいろな人からPro Tools | MTRXは優秀と聞いていたので、使うのを楽しみにしていたのですが、期待以上のクオリティを持ったオーディオ・インターフェースという印象です」(太田氏)

 

「HD I/Oよりもあたたかみのある音がしますね。中域の質感が分かりやすいので、音を作りやすい」(櫻井氏)

 

「これまでとはまったく設計が違いますよね。次世代の非常に洗練されたオーディオ・インターフェースというか。チャンネル数が多く、もの凄く集積されたオーディオ・インターフェースではあるのですが、動作もとても安定している。個人的にはデザインも凄く好きですね(笑)」(須田氏)

株式会社音響ハウス スタジオ事業部門
技術部統括部長/レコーディング・エンジニア 太田 友基 氏

今年3月にオープンした音響ハウスの新スタジオ、『Studio No.7』。櫻井氏は今後、いろいろなタイプの音楽のイマーシブ・ミックスを手がけていきたいと語ります。

 

「現状、イマーシブの仕事はそれほどあるわけではないのですが、エンジニアとして非常に可能性を感じています。アコースティックな音楽では空間の表現力が確実に増しますし、打ち込みものの音楽では実験的なことができるので、ミックスしていてとても楽しい。ただ、思っていた以上にいろいろなことができてしまうので、考えさせられることも多いですね。こちらがおもしろいと思ってやったことが、アーティスト・サイドの意図と合っているのかとか。しかしまだデフォルトやセオリーといったものが存在しないので、自分でどんどんやっていかないと確立できないと思っています。今後、360 Reality Audioにもチャレンジしてみたいですし、このスタジオを拠点に積極的に手がけていきたいですね」(櫻井氏)

向かって右から、音響ハウスの須田氏、櫻井氏、太田氏、タックシステムの益子氏

音響ハウス
(ONKIOHAUS)

Dolby Atmosは、Dolby Laboratoriesの登録商標です。

Pro Tools | MTRX

新たなレベルの再現性と柔軟性を実現