Avid S6導入事例 #35:TOHOスタジオ MAルーム

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東京・成城のTOHOスタジオは、1932年(昭和7年)に開設された日本を代表する撮影スタジオです。約24,000坪という広大な敷地に10棟もの撮影用ステージを擁し、黒澤明監督の『七人の侍』や『影武者』、『ゴジラ』シリーズなど、映画史に残る数々の名作がこのスタジオから生み出されました。同スタジオは2003年からポストプロダクション施設の大規模な改修を開始し、2010年には国内最大規模のダビングステージを擁する『ポストプロダクションセンター1』を新設。翌年には旧棟である『ポストプロダクションセンター2』もリニューアル・オープンしました。

2010年に開設されたTOHOスタジオの『ポストプロダクションセンター1』(東京・成城)

そんなTOHOスタジオは今年、『ポストプロダクションセンター1』内にDolby Atmos®に対応したMAルームを新設。TOHOスタジオ ポストプロセンター ポストプロ部 ポストプロ課長の早川文人氏によれば、同スタジオが純粋なMAルームを開設するのはこれが初とのことです。

 

「MAルームを造るという構想は、実は以前からあったのですが、なかなか実現までには至りませんした。しかし最近、撮影所の方は動画配信サービスの仕事が増えてきて、いくつかのステージはNetflixと年間賃貸契約を締結したんです。そういう仕事をポストプロダクションセンターでも受けられる体制を整えたいと考え、今回ようやくMAルームを開設する運びになりました。ここは以前、小試写室として使っていた部屋で、稼働率がそれほど高くなく、他にMAルームを造れそうなスペースがありませんでしたから、真っ先にここが候補に上がったんです」(早川氏)

新たに開設されたMAルーム。MAに特化した部屋はこれがTOHOスタジオ初となるという

Dolby Atmos(9.1.6.ch)に対応。ハードウェア・レンダラーのRMUも常設されている

TOHOスタジオ ポストプロ部 シニアテクニカルマネージャーの竹島直登氏は、「4K HDR対応のモニターの導入とDolby Atmosへの対応、この2つがMAルームのコンセプトでした」と語ります。

 

「ダビングステージをDolby Atmosに対応させるという計画もあるのですが、もの凄く大がかりな改修になりますから、新設のMAルームは絶対にDolby Atmosに対応させたいと考えました。Netflixも対応していなければ認証できないという話でしたし、Dolby Atmosというフォーマットには、個人的にも魅力を感じています。大きく音を動かすというより、縦方向で空間を作ることができるので、平面にあるスピーカーだけでは難しい“包まれ感”を表現できるのが魅力ですね。チャンネル数に関しては、最初9.1.6chという話も出たのですが、部屋の大きさ的に9.1.4chの方がいいだろうと判断しました。ちょうどこのスタジオを工事しているときに、Netflixの技術担当者が日本に滞在していたのでスピーカーの構成について訊いてみたのですが、“その大きさなら9.1.4chでまったく問題ない”と言ってくださってホッとしましたね。それとこの部屋は、Dolby LaboratoriesのRMUが入っているというのもポイントです。過去にDolby Atmos Production Suiteを使ったこともあるのですが、コンピューターにかなり負荷がかかりますし、オブジェクトが増えると動作が不安定になることがあるんです。RMUですと、そういった負荷を気にせずにリアルタイムに処理できますし、複数のワークステーションを接続できるというのも大きいですね」(竹島氏)

24フェーダー/5ノブのAvid S6と3式のPro Tools | HDXを導入

そしてMAルームの中核として導入されたのが、5ノブ/24フェーダーのAvid S6です。竹島氏は、「Dolby Atmos対応のMAルームに合うコンソールとなると、S6以外の選択肢は無かった」と語ります。

 

「最終的にPro Toolsがマスターになるので、MAのシステムとして、できるだけPro Toolsの中で完結しておきたいというのがありました。作業はこの部屋の中で完結するわけですが、最悪の事態を想定して、この部屋の続きを他のスタジオでもできるようにしておきたい。加えて価格やメンテナンス性を考えると、他に選択肢が無く、S6一択でした。中央にPro Toolsのディスプレイを置いて、フェーダーを左側に8本、右側に16本というレイアウトにしたのは、映画では2マンでの作業が基本になるからです。ただ、ウチの場合は映画の音響スタッフがそのままMAも手がけるパターンが多くなるのですが、スタッフたちからは早くも24フェーダーでは足りないと言われています(笑)。なので将来的にはフェーダー数を拡張する可能性もありますね。フェーダー数を後から拡張できたり、レイアウトを自由に変えられるという自由度の高さは、S6の大きな魅力なのではないかと思っています」(竹島氏)

 

S6は、Pro Toolsのモニター・ディスプレイを中心に、
左側に8本のフェーダー、右側に16本のフェーダーを配したレイアウトを採用

Pro Tools | HDXは、ダイアログ/音楽の再生用、SEの再生用、ダビング用の3式がSatellite Linkで同期され、大規模なセッションにも対応できるようにHDXカードはすべて2枚装着。オーディオ・インターフェースは1台のPro Tools | MTRXを3式のPro Tools | HDXで共有するセットアップが採用され、Pro Tools | MTRXはPro Toolsの台数分のDigiLink I/Oカード、Dolby Laboratories RMUを接続するためのデュアルMADI I/Oカード、Trinnov Audio MC 16を接続するためのAES3I/Oカード、外部入力用の8 Mic/Line Pristine ADカードが装着された、空きスロットの無いフル仕様になっています。

 

「3式のPro ToolsとPro Tools | MTRXは、それぞれDigiLinkが2系統繋がっているので、128chのオーディオを送受信できます。Pro Tools | MTRXは、内部でルーティングを自由にパッチできるため、状況に応じて各Pro Toolsの役割をフレキシブルに変えられるのが便利ですね。たまに作曲家さんが来られたときに、“手持ちのDAWから直接音を出したい”というリクエストがあったりするので、外部入力用にHD I/Oも1台残してあります。映像に関しては、このスタジオでは1台のMacの中でビデオまで扱ってしまうのがベストかなと思っているので、現時点ではPro Toolsのビデオ・トラックを使って再生しています」(竹島氏)

 

マシン・ルームに設置されたPro Tools | HDX用のMac Pro

オーディオ・インターフェースは、
1台のPro Tools | MTRXを3式のPro Tools | HDXで共有

2020年12月に工事が完了し、2021年1月から運用を開始したというTOHOスタジオ初のMAルーム。Netflixの話題作『全裸監督 シーズン2』のMAもすべてこのスタジオで行われたとのことで、竹島氏は「イメージしていた以上のスタジオが完成し、作業がとてもやりやすい」と語ります。

 

「S6のフェーダーは昔のデジタル・コンソールと比べると軽めなのですが、もの凄く素直に付いてくるという印象があります。何と言っても良いのはディスプレイ・モジュールで、波形表示がとても便利ですね。昔のデジタル・コンソールですと、一度データを読み込ませないと波形表示はできなかったのですが、S6はPro Tools上の波形がリアルタイムに表示される。きっかけが目で掴めるのでとてもミックスしやすいんです。また、監督によっては映像の上にタイムコードなどのキャラクターを載せないでほしいという方もいるんですが、そんなときもディスプレイ・モジュールがあれば問題なくフェーダーを触ることができる。Pro Tools | MTRXに関しては、膨大なチャンネルを扱っても音のセパレーションが良く、オーデォオ・インターフェースとして凄く優秀だなと思いました。音の解像度がとにかく高いですね」(竹島氏)

 

「S6とPro Tools | MTRXの組み合わせですべてが完結してしまうわけですから、これはAvidのシステムの大きな魅力だと思います。関係会社の皆さんのご協力のおかげで、いろいろなコンテンツに対応できるスタジオに仕上がったと思いますので、多くの方に使っていただきたいですね。映画、ドラマだけでなく、音楽コンテンツやゲーム・コンテンツ、さらにイベント関係など、イマーシブ・オーディオを利用できる可能性があるコンテンツなど、様々な作品でご利用いただければと思います。ぜひお問い合わせいただければ幸いです」(早川氏)

 

向かって右から、TOHOスタジオ ポストプロセンター ポストプロ部 ポストプロ課長の早川文人氏、
同ポストプロ部 シニアテクニカルマネージャーの竹島直登氏、タックシステムの小野隆氏

TOHOスタジオ株式会社
(TOHO Studios Co., Ltd.)
Dolby Atmosは、Dolby Laboratoriesの登録商標です。

Avid S6

S6は、モジュール式設計であり、構成されたシステムを選択するか、または独自のシステムを構築することが可能です。