Avid S6とPro Tools | MTRXをフル活用し、イマーシブ・ミックスに取り組むエス・シー・アライアンス

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株式会社エス・シー・アライアンスの一部門であるライブデザイン社のスタジオセクションは、音響デザイン/音響空間デザインをプランニングから仕上げまで一貫して行うポストプロダクション・カンパニーです。東京・早稲田のビルにはミックス・スタジオ2部屋、サウンド・デザイン・ルーム2部屋を擁し、博覧会や展示館、プラネタリウムの音響デザイン/音響空間デザインなど、様々な業務を手がけています。

株式会社エス・シー・アライアンス ライブデザイン社のミックス・スタジオ

そんなライブデザイン社のスタジオセクションは今年、Avid S6とPro Tools | MTRXが導入されているミックス・スタジオを改修し、7.1.4chのイマーシブ・ミックスにも対応するスタジオへとリニューアルしました。同社所属のサウンド・エンジニアである山本雅之氏によれば、2018年にS6を導入した時点で既にイマーシブ・ミックスへの対応を見据えていたとのことです。

 

「弊社が手がけているコンテンツは、Dolby Atmos ®などのフォーマットに準拠しているものはそれほど多くないのですが、展示系やイベント系、プラネタリウムなど、ハイト・スピーカーを使用するものは結構あるんです。そういった仕事は、再生する場所や作品によってスピーカーの位置がバラバラなので、最終的にはサイト・ミックスを行う必要があるのですが、それでも事前にシミュレーションできるスタジオは絶対にあった方がいい。ですので何年も前からスタジオの改修を計画していたのですが、ようやく実現できるかなというタイミングでコロナになってしまって……。しかし何もしないで止まっていても仕方ないと思い、フロント・スピーカーとサラウンド・スピーカーは入れ替えずに、ハイト・スピーカーを4本追加する形で、7.1.4chのイマーシブ・ミックスに対応させました。チャンネル数に関しては22.2chを検討したこともあったのですが、とりあえず7.1.4chで始めてみようと。ハイト・スピーカーはGenelec 8351Bと8341Aで、Dolby Atmosの規格にできるだけ沿いながら、映像の邪魔にならない位置に設置してあります。このスタジオは、サラウンド・スピーカーの位置が高いので、本当はもっと高い位置に取り付けて、サラウンドとハイトの差を付けたかったんですけどね。設置位置に関しては、将来フロント・スピーカーとサラウンド・スピーカーを入れ替えるタイミングで見直そうと思っています」(山本氏)

株式会社エス・シー・アライアンスのサウンド・エンジニア 山本雅之氏

Genelec 8351Bと8341Aを追加することで、7.1.4chのイマーシブ・ミックスに対応

Dolby Atmosのレンダラーに関しては、HT-RMUの代わりにDolby Atmos Renderer専用のMacを使用し、Pro Tools | MTRXとMADIで接続。ストレスのないDolby Atmosマスタリング環境が構築されています。

 

「最初はPro Toolsと同じMacでDolby Atmos Rendererを使ってみたんですが、一世代前の旧Mac Proということもあり、たまにノイズがのってしまうことがあったんですよ。そのことをDolby Japan 様に相談したら、Dolby Atmos Renderer ソフトウェア自体をHT-RMU(Dolby Atmos Home用マスタリング機*)の要領で別のMacに逃してレンダリング処理を分散させることも可能だとの回答があり、Media Composer用として使っていた別のMacを流用することにしたんです。レンダラー用MacにはMADI搭載のオーディオ・インターフェースを繋いで、Pro Tools | MTRXとは2系統のMADIで合計128ch送れるようにして。そうしたらまったくストレスなく作業ができるようになりました。もちろんいくつかの付加機能を持っているHT-RMUを導入すればいい話なんですが、HT-RMUを急に購入することも難しいですし、このスタジオではTrinnovを使用していますから、HT-RMUの付加機能のひとつである音場補正機能は必要ありません。安価にDolby Atmosのマスタリング・システムが構築できて、とても満足しています」(山本氏)

マシン・ルーム

Pro Tools | MTRX

イマーシブ・ミックスに対応できる環境になった後も、作業の中心になるのはS6。山本氏は先頃リリースされたEUCON 2021.6ソフトウェア・アップデートによって、S6の操作性がさらに向上したと語ります。

 

「最近はマウスとキーボードだけでミックスしてしまう人も増えていますが、専用のコントロール・サーフェスがあった方が作業が早いですし格段にラクです。個人的にはコントロール・サーフェスが無いと作業できません(笑)。以前使用していたICON D-Controlシステムも良かったんですが、S6はオペレーションの自由度がさらに高くなり、とても気に入っています。何と言っても便利なのが『カスタム・フェーダー』で、トラック数が増えれば増えるほど、整理しながらミックスしていかなければならないので、『カスタム・フェーダー』が欠かせません。それとEUCON 2021.6ソフトウェア・アップデートで待望だった『カスタム・ノブ』が追加されたのも嬉しいですね。『カスタム・ノブ』は、サーフェス上のノブにプラグインのパラメーターを自由にマッピングできる機能で、これまでもノブでプラグインを操作することはできたんですが、レイアウトが固定で少し使いづらかったんですよ。しかし新しい『カスタム・ノブ』を使えば、ノブとノブの間隔を空けることもできますし、ICON D-ControlシステムのEQパネルのようにレイアウトすることもできる。これからぜひ使い込んでいきたい機能ですね」(山本氏)

スタジオの中心となる32フェーダー/5ノブのS6

スタジオ改修後、さまざまなコンテンツのイマーシブ・ミックスに取り組んでいるという山本氏。まだまだ種類は少ないものの、イマーシブ・ミックスに対応したユニークなプラグインも登場し始めていると語ります。

 

「仕事で使えるサラウンド対応オートパンナーをネットさがしていて見つけたんですが、Sound Particlesというメーカーがおもしろいプラグインをいくつも作っているんですよ。Energy Pannerは音の強さ、Brightness Pannerは音の明るさに合わせてパンニングしてくれるプラグインで、手動では書けない動きを作ってくれるので飛び道具的に使っています。それとThe Cargo CultというメーカーのSlapperとSpanner。Slapperは8タップのディレイで、タップごとにリバーブの量や定位などを自由に設定できるので、凄く使いでがあります。

Slapper

一方のSpannerは、基本的にはパンナーなんですが、7.1.2chで定位を作ってから、音像を狭めたり広げたりできるのが便利なんですよ。リバーブでよく使うのは、24chまで対応したExponential AudioのSymphony 3DやStratus 3Dで、Exponential Audioからはたくさんリバーブが出ていますが、その中でもSymphony 3Dはとても音楽的な響きがするリバーブという印象です。パラメーターも多く、かなり追い込んだ音作りができるので、イマーシブ・ミックスで一番よく使うリバーブですね。

Spanner

アップミックスが必要なときに活躍するのはNugen AudioのHalo Upmixです。5.1chや7.1chへのアップミックスならば、WavesのDTS Neural Surround UpMixが凄く好きなのですが、ハイト・スピーカーに対応していないので、現状イマーシブへのアップミックスはHalo Upmixがベストですね。イマーシブ・ミックスをしていて、“これが足りない”というのは特にないと思いますが、7.1.2chに対応したダイナミクス系のプラグインがもっと増えてくれると嬉しいです。あとはAudio Ease Altiverbのイマーシブ対応も期待したいですね」(山本氏)

 

少し前にはDolby Atmos Musicに準拠した音楽のイマーシブ・ミックスにもチャレンジしたという山本氏。これからも様々なコンテンツのイマーシブ・ミックスに取り組んでいきたいと語ります。

 

「音楽のイマーシブ・ミックスは凄くおもしろかったですね。映画であれば、映像に合わせたサウンド・デザインをしなければならないですし、ぼくが普段手がけているプラネタリウムの音響もいろいろな制限があるのですが、音楽のイマーシブ・ミックスにはそういう縛りがない。広い空間の中で、自由に音作りができるのがとても楽しいなと感じました。それとチャンネル数が多いからか、長時間聴いていても2chよりも聴きやすい感じがするのも発見でしたね。イマーシブ・ミックスは確かに時間はかかるんですけど、アイディア次第でいろいろなことができるので、とても大きな可能性を感じています。先ほどご紹介したプラグインのようなおもしろいツールも増えているので、これからも積極的に取り組んでいきたいですね」(山本氏)

山本氏とタックシステムの益子友成氏

Dolby Atmosは、Dolby Laboratoriesの登録商標です。

Avid S6

S6は、モジュール式設計であり、構成されたシステムを選択するか、または独自のシステムを構築することが可能です。