
右:キヤノン株式会社 IR/MICE事業推進プロジェクト 担当主幹 八代達郎氏
左:株式会社TBSアクト システム本部 総合開発センター
未来技術推進部 兼 マネジメント本部 プロジェクトマネジメント部 礒辺宏章氏
新しい映像体験
視聴者に全く新しい映像体験を提供するために、映像機器メーカーは日々、革新的な技術を生み出しています。大田区下丸子に本社を置くキヤノン株式会社も、そうした日々の研究開発の中から、世界中の映像制作に関わる人々に愛される製品を送り続けるメーカーの一つであり、本社『キヤノンギャラリー』内に、それら最先端の映像技術を体験するためのシアターを有しています。
「150°シリンドリカルスクリーンで上映するための作品は8K映像から制作します。今までの8K機材を使用した作品はカメラFix、パンフォーカスのものが多い中で、今回はカメラワークを多用して撮影しようと考えました」(キヤノン株式会社 IR/MICE事業推進プロジェクト 担当主幹 八代達郎氏)
しかし、そのためには多くの撮影スタッフが必要になります。
「通常であれば、撮影スタッフだけでも10-15人程度は必要になります。しかし今回、2020年7月に発売を開始した『Canon EOS R5』を使用することで、機材をコンパクトにすることができ、スタッフも5人で撮影することができました」(八代氏)
撮影された映像素材を作品として編集するにあたり、その作業は株式会社TBSアクトに依頼されました。
「『ついに来たか!』という感じでした(笑)。それまで4Kの編集経験はありましたが、8Kの編集作業は経験がなかったので、大変そうだなというのが第一印象でした」(株式会社TBSアクト システム本部 総合開発センター 未来技術推進部 兼 マネジメント本部 プロジェクトマネジメント部 礒辺宏章氏)
実際の作業にあたっては、素材の取り回しを綿密に計画しました。
「まずは撮影時にSHOGUN7を同時に回してHDプロキシーを作成し、それを使ってオフラインを組み立てることにしました」(礒辺氏)
進行を止めないリモート制作
しかし、折しも新型コロナウイルスの蔓延により緊急事態宣言が出されていた時期。編集のためにスタジオに通うのも危険が伴いました。そこで、株式会社フォトロンの協力を得て、必要な機材とデータをフォトロン内に設置、礒辺氏は自宅からこのマシンにリモートアクセスすることで、オフライン作業を進めました。
「リモート制作には興味があったので、一度試してみたいと思っていました。所有していたMicrosoft Surfaceをインターネット経由でフォトロンのシステムにつないで接続、モニターアウトを自宅のSharp AQUOSにつないで作業しただけなので、費用も一切かかっていませんが、本当にまったく問題なく、普通に作業できました」(礒辺氏)
ここで完成したオフラインシーケンスを、キヤノンに準備されたオンライン用のAvid Media Composerにコピーし、 Canon EOS R5で撮影したオリジナルの8K 30p素材(.crm)と再リンクします。リンクがとれたら、これをそのままBlackmagic Design DaVinci Resolveに送り、カラーグレーディングを施したものをDNxHR HQXの形でエクスポートしました。
これをキヤノンの臨場感変換PCを使って、魚眼レンズで撮影した素材の歪みを150°シリンドリカルスクリーンに投影するための処理を行います。
「これが大変だったんです…素材をTiffの連番としてエクスポートして変換機にコピーするんですが、なにしろ8K素材なのでサイズが大きくて…」(八代氏)
膨大な量の映像データをAvid NEXISを使って高速処理
その頃、Avid NEXIS SSDが到着しました。早速すべての素材をAvid NEXIS SSDにコピーし、Media Composerを40Gb Fiberで、臨場感変換PCを10Gb Fiberで、それぞれAvid NEXISに接続しました。
「これまでは、5分半尺のコピーに1回3-4時間、エンコードを含めると、上映までに24時間程度かかっていたので、帰れないのが普通だったのですが、これが劇的に改善しました。Avid NEXIS SSDがあることで、おそらく20時間は短縮できたと思います」(八代氏)

構成要素を1つにまとめる
ワークスペースを作成する上で最も重要なことは、チームがどのようにメディアを使用するかを分析することです。あるメディアは、1人の編集者または1つのチーム専用、あるメディアは特定のプロジェクトまたはエピソード固有、そしてあるメディアはタイプ別にアクセスする必要があります。人々がメディアを検索、使用している方法にワークスペースが近ければ近いほど、ワークフローおよびセキュリティ・プロセスの効率化によるメリットが顕著になります。
多くのプロジェクトでは、ユーザー毎のワークスペース、音楽や音響効果などの共有アセットやライブラリ用のワークスペース、完成してアーカイブしたメディアで将来的に参照の可能性があるメディア用のワークスペースを作成することから始めるとよいでしょう。プロジェクトのニーズ拡大に従い、ニーズに応じてワークスペースとユーザー権限を更新することができます。
もちろん、編集作業自体にも大きな改善を実現しました。
「パフォーマンスもそうですが、ローカルストレージを使っていたときと比べても、8Kの安定性も段違いになりました。再生したときの感覚もHDと変わらず、2レイヤーでスーパーを入れたりすると多少重く感じますが、OLくらいなら問題ない。ひょっとしたら直編集でいけたんじゃないかと思ったくらいです」(礒辺氏)
「社内の同僚たちに話したところ、毎日のように見学に来ました(笑)」(八代氏)
8K制作を定常化
この経験を元に、八代氏は新たな8K映像の制作に入りました。
「このフローなら制作を軌道に乗せることができるという実感がありました。このときの経験は今に生きています」(八代氏)
さらに最近、オリハルコンテクノロジー社のアマテラスサーバーを使って、システムからスクリーンに映像を直接投影することができるようになったため、制作効率はさらに上がっています。
「微細な映像の揺れや色の調整は、やはりスクリーンに投影してみないとわかりません。これが直接調整できるのは大きいです」(礒辺氏)
キヤノンではこうして制作された作品の他にも、様々な作品を公開しています。下記のリンクからお確かめください。
●Canon Imaging Plaza (YouTube)https://www.youtube.com/user/canonimagingplaza/search?query=8K