Avid VENUE | S6L導入事例 #03:Artware hub

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2018年の暮れ、東京・早稲田にまったく新しい音響空間が誕生しました。“Artware hub”と名付けられたこの施設は、故・梯郁太郎氏(楽器メーカー、ローランドの創業者)が創設したかけはし芸術文化振興財団が主体となって開設された、実験的な音響空間。一見すると小規模なコンサート・ホール/ライブ・スペースのようですが、室内には一般的なPAシステムに加えて36.8chのスピーカーが設置してあり、あらゆる規格のイマーシブ・オーディオ・コンテンツが再生できるようになっています。レコーディング用のPro Tools | HDXシステムも常設され、250インチのスクリーンやプロジェクター、4K対応のビデオ・カメラ、配信システムなども完備されたユニークな音響空間であるArtware hub。そのコンセプトについて、かけはし芸術文化振興財団の理事であり梯郁太郎氏のご子息でもある梯郁夫氏は、「ありきたりのコンサート・ホールではなく、“コンテンツを実現する場所”をつくりたかった」と語ります。

東京・早稲田に開設された音響空間、Artware hub。サウンド・システムの中核を担うVENUE | S6L

「父は生前、“場所が欲しい”とよく言っていたんです。メーカーがどんなに良い楽器をつくったところで、それを体験できる場所が無ければ意味がないだろうと。また父は、“これからの時代はコンテンツだ”ということも言っていて、会社の中にコンテンツ事業部を立ち上げたりしていたんです。ですので単なるホールではなく、“コンテンツを実現する場所”にしたいなという想いは最初からありました。それとイマーシブ・オーディオ対応というのも今回の大きなコンセプトの一つです。こういったホールでイマーシブ・オーディオというのは、相反するコンセプトだとは思ったんですが、父は立体音響にも情熱を持って取り組んでいた人だったので、これは疑いなくやろうと。ここはそれほど広い空間ではないのですが、イマーシブ・オーディオ対応という点ではそれが幸いしました。2,000〜3,000人入る規模だったら、こんな感じでスピーカーを設置して、イマーシブ・オーディオに対応させるなんて難しかったですからね。広さ的にも施工的にも制約のある場所だったんですが、それが幸いしてイマーシブ・オーディオ対応の空間ができたという感じですね」(梯氏)

36.8chのスピーカー・システムが常設され、Flux SPAT Revolutionによって、あらゆるイマーシブ・オーディオ・フォーマットに対応する

世界的に見ても珍しいイマーシブ・オーディオ対応の音響空間、Artware hub。そのコンセプトづくりからシステム設計、機材の選定に至るまで深く関わっているのが、エンジニア/プロデューサーの伊藤圭一氏です。かけはし芸術文化振興財団の理事でもある伊藤氏は、1980年代から梯郁太郎氏・郁夫氏両人と親交があり、今回のプロジェクトを中心になって推進しました。

 

「僕的には、“観客が入れるラボ”というイメージの空間をつくりたいと思ったんです。スウィート・スポットが広く、再生だけでなく録音にも対応した、ホールとスタジオのいいところ取りをしたような空間。加えて音響機器はもちろん、映像機器や照明設備なども完備した、すべてのことが一通りできる環境というのも最初から考えていたことです。長年コンサートの演出を手がけている人間として、現場の仕込みにかかる時間と費用ほどバカらしいものはないんですよ。それに仮設というのはクオリティの面でも問題が大きい。グラウンド・ノイズの問題もありますし、誰かがケーブルに足を引っかけてしまったり。なのでここは、外部から機材を持ち込まなくても、とりあえず一通りのことができる環境にしたかったんです。でも、こういった設備は、理想を追い求めていくとキリがない。プロジェクトが進む過程で迷うことが何度もあったんですが、そんなときは天を仰いで、“郁太郎さんだったらどうする?”と質ねましたよ(笑)」(伊藤氏)

伊藤圭一氏

36.8chのスピーカーは、Fulx SPAT Revolutionによって制御され、物理的に設置されているスピーカーに対して、音源を仮想的に配置。これによって5.1ch、Cube、Auro-3D、DTS、Dolby Atmos、22.2chなど、さまざまなイマーシブ・オーディオ・フォーマットに対応しています。

 

「イマーシブ・オーディオには、たくさんフォーマットがありますが、どれも単に再生するだけでも大変なんです。22.2chなんて、スピーカーをセッティングするだけでも相当な労力と時間がかかる。なので、フォーマットに合わせてスピーカーが可動するシステムとかいろいろ検討したんですが、そんな力技ではなく、バーチャルに実現できたらいいんじゃないかと思い、SPAT Revolutionを採用することにしました。これによってあらゆるフォーマットに即座に対応できるシステムになっています」(伊藤氏)

VENUE | S6Lは、24フェーダーのS6L-24D、エンジンはE6L-192、ステージ・ボックスはStage 64という構成

そしてArtware hubの音響設備の中核として導入されたのが、Avid VENUE | S6Lです。導入されたシステムは、サーフェースが24フェーダーのS6L-24D、エンジンはE6L-192、ステージ・ボックスはStage 64という構成。Artware hubにおいてVENUE | S6Lは、PAコンソールとしてだけでなく、Pro Tools | HDXシステムのオーディオ・インターフェースとしての機能も担っています。伊藤氏はVENUE | S6Lを選定した理由について、「ミックスとレコーディングを分け隔てなく行うことができる唯一の選択肢だった」と語ります。

 

「VENUE | S6Lは、Pro Tools | HDXシステムとAVBで接続することで、128chのオーディオ信号を送受信することができるんです。ですので、その場の音をミックスするだけでなく、必要であればすぐにPro Toolsにレコーディングすることができますし、逆にPro Toolsで再生した音をミックスすることもできる。コンサートの現場では、メンバー全員が揃わない状況でもリハーサルをやらなければならないことが当たり前のようにありますが、このシステムなら入力をマイクからPro Toolsに切り替えれば、本番と同じようにミックスができるというわけです。それと今後、世界中から人をお招きすることを考えると、できるだけスタンダードなものを導入したいと思っていたので、そういった意味でもVENUE | S6Lがベストだと判断しました」(伊藤氏)

膨大なオーディオ回線をハンドリングするために導入されたPro Tools | MTRX

またArtware hubでは、膨大なオーディオ信号をハンドリングするためのルーターとして、Pro Tools | MTRXも導入。Pro Tools | MTRXはVENUE | S6Lの後段に接続され、オーディオ信号をそのままパワー・アンプに送るか、あるいはSPAT Revolutionを経由してパワー・アンプに送るかという制御が、ワン・タッチで行えるシステムが構築されています。

 

「これだけのシステムですが、主に操作するボタンは4つだけなんです。VENUE | S6Lの音を出すか、SPAT Revolutionの音を出すか、サブ・コンソールの音を出すか、ビデオの音を出すか、この4つしかない。事務局の人しかいなくても、ビデオの音を簡単に出せる設計になっています」(伊藤氏)

 

施設が完成して以降、さまざまなイベントやレコーディングで使用されているArtwarehub。伊藤氏は「梯郁太郎さんの理想がすべて反映された、本当に稀有な空間」と語ります。

 

「イマーシブ・オーディオに対応して、最新の映像設備や照明設備が整ったこれだけの施設は、世界的に見ても珍しいのではないかと思います。しかもこれだけの施設でありながら、すべての人に門戸が開かれている。これは本当にすごいことで、我々はこんな施設を遺してくれた梯郁太郎さんに感謝しないといけませんね」(伊藤氏)

梯郁夫氏と伊藤圭一氏

公益財団法人かけはし芸術文化振興財団
http://www.kakehashi-foundation.jp/

 

システムインテグレーションを行ったロックオン・プロによるシステム詳細解説Web記事も併せてご参照ください。
Artware hub KAKEHASHI MEMORIAL 様 / レジェンドの描いた夢が実現する、全方位型36.8chイマーシブステージ

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