ロブ・アランが語る、VENUE | S6Lを使用したライブ・ミキシングの実際

By in ライブサウンド

1980年代にエンジニアとしてのキャリアをスタートさせ、これまでColdplayやLisa Stansfield、Manic Street Preachersなど、多くのトップ・アーティストのライブ・ミキシングを手がけてきたロブ・アラン(Robb Allan)氏。最近ではAvid VENUEの開発にも関わっているアラン氏が、Massive Attackのジャパン・ツアーに合わせて来日。はたしてMassive AttackのライブではVENUE | S6Lシステムを使ってどのようにミキシングを行なっているのか、11月24日にAvid Space Tokyoで開催されたセミナーの前に話を伺いました。(写真:鈴木千佳)

ライブ・エンジニアに必要なのは、50%は技術、50%は人間性

 

——— まずはアランさんの経歴からおしえていただけますか。

 

RA 若い頃はバンドでギターを弾いていたのですが、20歳を過ぎたあたりからエンジニアとしても仕事をするようになりました。次第にプレーヤーよりもエンジニア仕事の方が増えてきて、そのまま流されるようにこっちの道に進んだという感じです。本当はロック・ミュージシャンになりたかったんですけどね……。あの時代は、あんまり練習が好きではないプレーヤーがエンジニアになるというのはよくあることだったんですよ(笑)。ただ、ミックスをたくさん手がけるようになって、自分がやっていることはバンド・サウンドを観客に伝えるためのとても重要な仕事であるということを理解しました。もうかれこれ30年以上この仕事を手がけていますが、ライブ・エンジニアは天職だと思っています。

 

——— レコーディングではなく、ライブ・エンジニアを選んだのは?

 

RA 若い頃は両方やっていて、どちらも好きだったのですが、依頼される仕事がライブの方が多く、いつの間にかこちら側の人間になったという感じですね。できれば両方の仕事を続けていきたかったのですが、当時は今以上にスタジオとライブは完全に業界が分かれていましたから。一度“ライブ・エンジニア”として認知されたら、もうそっちの世界で生きていくしかなかったんです(笑)。

 

——— エンジニアリングは完全に独学ですか?

 

RA ええ。80年代は今のように音響の専門学校はありませんでしたから。最初はまったく知識が無く、すべて現場で仕事をしながら学んでいったんです。でも、当時のエンジニアはみんなそうだったと思いますよ。最初のツアーの仕事のときも、プロモーターから“経験はあるか?”と尋ねられたのですが、“もちろん”とハッタリをかまして仕事を受けました(笑)。この仕事を続けていくには、こういうハッタリが必要なのです。

 

——— 転機となった仕事は?

 

RA Manic Street Preachersですかね。彼らとはかなり長く仕事をしましたし、日本にも一緒に何度かやって来ました。他にはLisa Stansfield、Stereo MCs、alt-Jなど、たくさんのアーティストを手がけてきましたが、商業的に最も成功したのはColdplayです。ちなみに私はこれまで、ツアーリングの会社に所属したことはありません。ずっとフリーランスのエンジニアとして、FOHのミキシングを手がけています。

 

——— ツアーリング・カンパニーに所属せずに、それだけの大物アーティストの仕事を手がけているというのが凄いですね。

 

RA よくわからないというのが正直なところです。私がスコットランド出身というのは少なからず有利に働いているのかもしれません。ライブ・エンジニアという職業は結局、あるツアーで評価されたら再び電話がかかってくるということの繰り返しなんですよ。私はライブ・エンジニアとして仕事を続けていく上で、2つ大事なことがあると考えています。1つは当然ですが、技術的にしっかり仕事をこなせること。もう1つは人間性です。ライブ・エンジニアは、レコーディング・エンジニアよりもアーティストと一緒に過ごす時間が長いので、長時間一緒にいて楽しい人間かということがとても重要になります。ライブ・エンジニアに必要なのは、50%は技術、50%は人間性だと思っています。

 

——— 現在はライブ・エンジニアとしての仕事を続けながら、Avidのライブ・コンソールの開発にも関わられているそうですね。

 

RA そうです。ライブ・コンソールをデザインするチームと一緒に仕事をしています。とはいえ、アメリカに住んでいるわけではなく、私はバルセロナに住んでいます。バルセロナは、天気と食べ物が最高ですからね。

Robb Allan

革命的だったVENUEのバーチャル・サウンド・チェックとプラグイン

——— デジタル・コンソールを最初に使ったときのことを憶えていますか?

 

RA 最初に触れたのはヤマハのPM1DかAmekのハイブリッド・コンソールだと思いますが、実際に現場で使ったのはAvid VENUE D-Showシステムが最初です。VENUEシステム以前のデジタル・コンソールは正直、サウンド的に積極的に使いたいとは思えませんでした。しかし2004年、DigidesignのスタッフにVENUE D-Showシステムを紹介されて、その素晴らしさに打ちのめされたのです。サウンドもそうですが、豊富に用意されたプラグイン・エフェクトと、Pro Toolsを使ったバーチャル・サウンド・チェックは革命的だと思いました。それ以降、私は現場でVENUEしか使ったことがありません。13年のうち一度だけDiGiCo D5を使用したことがありますが、それはLive AidにColdplayが出演したときで、自前のコンソールを持ち込めなかったので仕方なかったのです。

 

——— VENUEはツアーリング用コンソールとして、瞬く間に普及しました。ライブ・サウンドの世界ではまったく実績のなかったメーカー製のコンソールが、ここまで支持された理由はどこにあるとお考えですか。

 

RA いろいろありますが、やはりバーチャル・サウンド・チェックでしょうね。バーチャル・サウンド・チェックは、ロバート・スコヴィル(Robert Scovill。Avidのライブ・サウンド製品担当シニア・スペシャリスト)の発明です。バーチャル・サウンド・チェックによって、ライブ・ミックスをスタジオ・アルバムにように細かく作り込むことが可能になりました。最近はLTCでプレイバック用のDAWとFOHコンソールを同期させますが、そのようなシステムだと本当に細部のディテールまで追い込むことができます。私の家にはVENUE | S6Lシステムがあるので、いくらでも時間をかけて音作りができます。バーチャル・サウンド・チェック以前は、そういった音作りはリハーサルでしかできませんでした。アーティストがステージ上にいるときしかできなかったのです。これは本当にライブ・ミックスの革命だと思っています。

 

——— スタジオ標準のプラグイン・エフェクトが使用できる点も、VENUEが支持されている大きな理由のように思います。

 

RA おっしゃるとおりです。以前は大量に持ち込んでいたラックが、今やiLok 1本で済むわけですからこんなに楽なことはありません。90年代、照明などの演出系の機材はどんどん少なくなっていったんですが、逆に音響機材は増加傾向にあったんですよ。なので照明スタッフは機材の撤収が早く、彼らが一足先に美味しいワインを飲んでいるのがうらやましかったものです(笑)。しかしVENUEとプラグインの登場によって、私たちも照明スタッフと一緒に美味しいワインを飲めるようになりました(笑)。

プラグインの何が素晴らしいかと言うと、思いついたアイディアをすぐに試せるところです。アウトボードの場合は、倉庫に実機を取りに行ってコンソールと接続しなければなりません。現在ツアーで回っているMassive Attackの場合、打ち合わせの際に“あそこではこんなエフェクトをかけたらどうか”というアイディアがたくさん出ます。そんなアーティストのミックスも、VENUEならいくらでも対応することができます。例えば、ある部分だけにフランジャーをかけたり。それとプラグインは、コンソールに完全に統合されているというのがポイントなのです。パラメーター設定をスナップショットとして保存できるため、LTCを使えば楽曲の展開に合わせてエフェクトをどんどん変化させることができます。同じことをアウトボードでやろうと思ったら、腕が100本あっても足りませんよ(笑)。

Robb Allan with S6L

——— アーティスト・サイドから、“レコーディングで使ったあのプラグインを使ってほしい”といったリクエストはありますか?

 

RA これまでそういう具体的なリクエストを貰ったことはありませんが、言語は共有できていると思います。アーティストはPro Toolsやプラグインのことをよく知ってますから。

 

——— アランさんはVENUEを使い始めて以降、エフェクトに関しては100%プラグインですか?

 

RA はい、100%プラグインです。面倒だからアウトボードを使わないというわけではありません。サウンド的に完全にプラグインでまかなえていますので、それだけで十分なのです。例えば1176だったら、多くのメーカーから異なったタイプのイミュレーションが出ています。しかもハードウェアのように、故障やコンディションの悪いものが混じっていたりといったことはありません。いまだにアナログ機材にこだわっている人もいますが、写真の世界を思い出してください。デジタル一眼レフ・カメラが登場したとき、多くの人たちが“デジタルなんかでフィルムのクオリティが出せるわけはない”と言っていましたが、今や誰もがデジタル一眼レフ・カメラを使っています。みんな良い思い出のようにアナログ機材のことを語りますが、実際にはそんなに良い時代ではなかったのではないでしょうか。アナログ・マルチ・ケーブルを50mも引き伸ばしていたわけですが、言ってみればあのケーブルはローパス・フィルターで、見事にトップ・エンドが失われていたわけです。ライブ・サウンドは、80年代や90年代とはまったく変わっています。あの時代とは比べものにならないくらいハイ・クオリティなサウンドになっているのです。

 

——— Avidは2015年、第二世代のVENUEであるVENUE | S6Lシステムを発売しました。それまでのVENUE D-Show/Profileシステムと比べると、すべての面において進化していると言えますか?

 

RA もちろんです。VENUEの登場は2004年のことになりますが、基盤となっていたTDMテクノロジーはその時点でかなり古く、言ってみれば90年代の技術だったのです。しかしVENUE | S6Lシステムでは、最新のHDXテクノロジーが採用されました。内部処理は96kHz/32bit浮動小数点演算になり、音質は飛躍的に向上したと言っていいでしょう。AD/DAコンバーターだけでなく、入力段のマイク・プリアンプの音質もかなり良くなっています。また、ユーザー・インターフェースもタッチ・スクリーンの採用によって格段に使いやすくなりました。とはいえ、ソフトウェアは同じVENUE Softwareなわけですから、D-Show/Profileシステムに慣れた人なら初めて触って1時間くらいで仕事ができるようになると思います。

これまでのデジタル・コンソールは、アナログ・コンソールのイミュレーションが基本にあったと思うんです。しかしVENUE | S6Lシステムは、アナログ・コンソールのデジタル・イミュレーションではありません。ボタンはすべてソフト・キーであり、その機能は自由にプログラムできます。“誇りをもってデジタル”、“恥じずにデジタル”。それがVENUE | S6Lシステムなのです。

 

——— アナウンスされているWaves SoundGrid対応の進捗はいかがですか。

 

RA VENUE | S6Lシステムの唯一のウイーク・ポイントはWaves製プラグインが使えないことでした。私個人はWaves製プラグインを使用しないのでまったく問題なく、Waves製プラグインを愛用していた私の友人たち…… 例えばDuran DuranのFOHエンジニアであるスネーク・ニュートン(Snake Newton)なども、Waves製プラグインを使うのをやめて、VENUE | S6Lシステムに移行しました。彼にとってはWaves製プラグインよりもVENUE | S6Lシステムのサウンドの方が重要だったのです。しかしその問題も来年初頭には解決します。VENUE | S6LシステムはようやくSoundGridをサポートするため、他のAAXプラグインと同じようにWaves製プラグインを使用することが可能になります。SoundGridサーバーとE6LはCAT5ケーブルで接続すればよく、2台用意すれば冗長性を確保することもできます。SoundGridサーバーを2台接続したシステムでも、プラグインのライセンスは1つだけでOKです。プラグインのコントロールは、VENUE | S6Lシステムのサーフェース側から完璧に行えるため、ラップトップ・パソコンを用意する必要はありません。VENUE | S6LシステムとSoundGridサーバーの間には、128ボイスが確保されます。そして各ボイスでは最大8個のプラグインを使用することができます。

Robb Allan speaking

ライブ中はLTCでVENUE | S6Lシステムのスナップショットを切り替えていく

——— 今回のMassive Attackのツアーのミキシング・システムについておしえてください。

 

RA コンソールはもちろんVENUE | S6Lシステムで、32+2フェーダー/4面タッチスクリーンのS6L-32Dを使用しています。今回のシステムの特徴は、VENUE | S6Lシステムとプレイバック用のAbleton Live、照明/レーザーといった演出用機材がすべてLTCで同期している点です。Ableton Liveから出力されたLTCはS6Lに入り、さらに演出用機材にも送られます。そしてこのLTCは、レコーディング用のPro Tools | HDXシステムにオーディオ信号として録音されます。これによってバーチャル・サウンド・チェック時にもライブ時のサウンドと照明が完璧に再現されるのです。

 

——— Ableton Liveのオペレーションはどなたが行うのですか?

 

RA アルバムのプロダクションにも関わったAbleton Live担当のメンバーがいて、彼がすべてのオペレーションを行います。Ableton Liveからは4本のステレオ・ステムが出力されます。しかし楽曲によって使うステムの数はまちまちですね。まったく使わない曲もありますし、4本すべて同時に使うということはほとんどありません。ステムの内訳は、バックグラウンド・ボーカルだったり、ちょっとしたSEだったり、いろいろです。Massive Attackサウンドの特徴であるサンプルやループに関しては、ほとんどドラマーが生でトリガーしています。

 

——— VENUE | S6Lシステムでは、Ableton Liveから受け取ったLTCでスナップショットを切り替えているのですか?

 

RA そのとおりです。スナップショットですべてのチャンネル設定を変えてしまうこともあれば、特定のチャンネル設定だけ変えたり、ディレイのセンド送りだけ変えることもあります。VENUE | S6Lシステムが素晴らしいのは、スナップショットの切り替え速度を設定できる点です。これによって、ある単語にだけディレイをかけたりといったミックスが可能になっているのです。ステージ上のミュージシャンも当然、エフェクトがかかった状態でモニターしています。

 

——— かなりシステマチックなミックスになっているのですね。

 

RA いや、下準備はしっかりしていますが、一概にシステマチックとは言えないと思います。フレームワークはしっかりさせて、その上で即興できる部分をかなり残してあるのです。彼らのライブは、流動的でオーガニックなものです。ある部分のディレイなど、毎回決まっていることだけスナップショットで自動化しようという考え方です。完全に自動化されているわけではありません。

 

——— 今回のツアーで使用しているプラグインをおしえてください。

 

RA リバーブは、Avid ReVibeがメインです。ReVibeはサウンドが好きで、これまで手がけてきたショーのボーカル・リバーブはほとんどReVibeだと思います。アナログ・コンソール時代はLexicon PCM70をメインに使用していたのですが、ReVibeはとにかくプリセットがよくできていて、そこからちょこっと調整すれば使えるというのがいい。あとリバーブは、Sonnox Oxford Reverbも使っています。ダイナミクス系のプラグインはいろいろ併用していて、ボーカルにはSonnox Oxford SuprEsserを使い、Ableton Liveから送られるステムにはSonnox Oxford Dynamicsを使用します。他にはAvid Pro CompressorやAvid Pro Multibandもよく使いますね。

 

 

——— Massive Attackのミックスでは、ダブ的な処理も重要になってくると思うのですが、そういったエフェクトにはどのようなプラグインを?

 

RA ディレイは基本、Avid Mod Delay IIIです。ディレイ・タイムは楽曲のBPMに合わせてあらかじめプログラムしておき、ボーカル用にはショートとロング、2種類のディレイを用意しておきます。Mod Delay IIIはステレオで使用して左右のタイムを変え、Grooveパラメーターを使って広がり感を出すのがコツですね。ボーカルに関しては出力を2つに分けて、片方をボコーダーに入れることもあります。音を歪ませたいときはAvid SansAmp PSA-1、音に味を足したいときはAvid Moogerfoogerをよく使います。例えばこの曲(ファースト・アルバム『Blue Lines』収録の『Safe from Harm』を再生)では、ドラムをSansAmp PSA-1で歪ませ、ドラム・リバーブにはMoogerfooger 12-Stage Phaserを使っています。Moogerfooger 12-Stage Phaserは、ライド・シンバルにも使っていますね。

 

——— かなりクリエイティブなミキシングですね。

 

RA そうですね。Mod Delay IIIはディレイ・タイムとフィードバックはプログラムしておきますが、送りに関しては会場の響きに合わせて即興で変えています。また、Massive Attackのミックスではパンニングが重要です。アルバムで印象的に使われているパンニングをライブでもそのまま再現しているのです。マニュアルでパンニングするときは、フリップ・モードを使ってフェーダーで操作しています。

 

——— 今日はこれからセミナーとのことですが、どのようなことを話そうと思っていますか。

 

RA 秘密のテクニック、内緒のフォーミュラは一切ありませんので、訊かれたことにはすべて答えようと思っています。私から話そうと思っていることは、“とにかく音をよく聴け”ということくらいですね。音を聴いて良かったら、何もする必要はありません。そのプラグインをインサートすることで本当に音は良くなっていますか? 時には“何もしない”ことが重要になってくるのです。私は今回のツアーで50〜60個のプラグインを使用していますが、それは明確な理由があるから使っているのです。あとは技術的なことではありませんが、人間関係を大切にしなさいということは話そうと思っています。この世界で生き残っていくには、人への対応スキルが重要になってきます。つまり、人間に対しても音に対しても謙虚でいなさいということですね。

 

——— デジタル・コンソールと同じようにメーカー各社が力を入れて開発しているのがラインアレイ・スピーカーです。アランさんのお気に入りをおしえていただけますか。

 

RA d&b audiotechnik J-Seriesが好きです。L-Acoustics K1やAdamsonも素晴らしいと思いますが、どれか1つを選べと言われたらJ-Seriesを選びます。私はスピーカーの構造にはあまり関心は無いのですが、J-Seriesのサウンドはとても音楽的なんです。ちなみにスタジオでのモニタリングでは、DSP入りのGenelecを使っています。

 

——— 最後にアランさんのようなライブ・エンジニアを目指している日本の若者にメッセージをお願いします。

 

RA どんな仕事でも自分の能力を最大限発揮し、一生懸命取り組んでください。そしてその仕事はぜひ笑顔でやってください。笑顔でやらないと、次の仕事に繋がりません。あとは先ほども言いましたが、とにかく音をよく聴きましょうということくらいですかね。

Robb Allan touching S6L

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